夏休み


「ね、三蔵、重くない……?」

吐息まじりに囁く言葉に、熱がこもっているのが自分でもわかる。
でも、それも無理はないと思う。
さっきから、三蔵の膝に乗り上げる格好で座って、何度もキスを交わしているんだから。

「別に重くはないが……」

低い囁きともに、唇まで数センチだった距離をつめられる。
二、三度、啄ばむように軽くキスを交わす。と、唇を舐められて、そのまま舌が入り込んできた。

「ん……」

軽く頭を振って、深く重なる唇から顔を遠ざける。
だって。
もう少しこのふわふわした感じを味わいたいから。
もう一度。今度は、軽く三蔵の唇に触れる。

「……ったく」

少し焦れたかのような声とともにプチンという小さな音がする。
ふと、音のした方を見るために、視線を下げると。
いつのまにか、三蔵の綺麗な指が伸びてきていて、シャツの胸元のボタンを外されていた。

「や。もうちょっと、このまま……」
「それは無理だろう。1週間もお預けをくらってるんだからな」
「……あっ」

鎖骨の上に柔らかい感触と、甘い痛み。

「……1週間は、俺も同じだもん」

サークルの合宿で、海に行っていた。
合宿って言っても、それは名目だけで。ほとんど遊んで過ごしたようなもの。
楽しかったけど、でも淋しくて。
家に帰ってくるとともに、ソファに座って新聞を読んでいた三蔵にキスをした。

「同じだけ我慢してきたんだからまずは俺の言う通りにしてくれてもいいでしょ」

胸元にある三蔵の顔を両手で包み込んで上げさせる。
そっと額にキスを落とした。

「本当に我慢してたのか?」

するりと、服がはだけられる。

「こんなに日焼けして。惜しげもなく晒していたんだろう、その体を」

「もう。ヘンな言い方して。海に行ったら、上半身、裸は当たり前だって」

ぷうと頬を膨らませてみせるが、素肌の上を辿っていく悪戯な指に体が震えてくる。

「そういう三蔵だって、1週間、ちゃんと大人しくしてたの?」
「さぁ」

返された言葉に息を呑んだ。
別の意味で体が震えてくる。先ほどまでの熱は一瞬にして、霧散してしまった。
と、三蔵が短く息をついたのが、耳に聞こえてきた。

「こら、待て」

離れようとしたのを、抱き込まれる。

「そんなに信用ないか、俺は」
「ちが……っ」

俯けた顔を上げさせようとする三蔵の手に抗う。
だけど、結局は敵わなくて。
歪んだ視界に、綺麗な紫の目が映った。

「泣くな」

言葉とともに目の上に、優しくキスをされた。
涙を唇で吸い取られて。
それから、羽のように軽いキスがいくつも降ってくる。

「こんな風に触れるのはお前だけだとわかっているだろうに……。何が不安だ?」

違う。三蔵が悪いんじゃない。
ただ、俺が。
俺が、いつまでたっても慣れないだけ。本当だと思えないだけ。
この綺麗な人が、自分を好きでいてくれるのだということに。

「確かめさせてやるよ」

微かに笑みを含んだ声が耳元で響いた。
と、同時に、視界が傾く。
気がつくと、視線の先に天井が見えた。
が、それも覆いかぶさってくる三蔵で見えなくなった。
唇が重なる。
ざらつく舌が歯列を割って入ってくる。
あ、と思う間もなく、舌を絡めとられ、舌先から根元までくすぐられるように重ね合わされた。
くちゅりという濡れた音が、室内に響く。
何度も舌を絡め、強弱をつけて吸われ、口腔内をかき回され――。
甘い、甘い痺れが体の芯に生まれる。

「さん……ぞ……」

やがて離れていく唇を追いかけるように、もう一度キスをした。
それから、口の端から零れ落ちたどちらのともつかない唾液を拭ってくれるように、三蔵が唇を滑らせていく。ときどき甘い痛みを残しながら。

「……スルの?」

甘い感覚に流されそうになりながらも聞いてみる。

「嫌か?」

動きを止めて、三蔵が見下ろしてきた。
例えばここで、嫌だと言ったら。
この人はきっと何も言わずに、解放してくれるだろう。
知っている。
この人は、とても強引だけど、でも、本気で嫌がることはしない。
大切にされているのだと――。
そう、思える瞬間。

「嫌じゃない」

手を伸ばし、三蔵の背中に回して引き寄せた。

「でも、スルならベッドでシよ?」

「却下」

ソファは狭いから、身動きがとれなくて互いに辛い。
そう思って言ったのに、間髪も入れずに拒否される。

「なんで?」
「1週間もお預けをくったうえに散々、焦らされたんだぞ。ベッドまでなんて、持たねぇよ」
「焦らしてなんか……あ、やぁっ」

突然、触れられて、体が跳ね上がる。

「さんぞ、ダメ……いきなり……っ」

甘く、高く、掠れる声が無意識のうちに口から零れ落ちる。

「三蔵っ!」

三蔵の背に回した手に、全ての想いと力をこめた。