家庭料理


カチャリ、と玄関のドアが開く音がした。
火を止めて、パタパタと出迎えにいく。
ちょうど玄関の鍵をかけおえた、スーツ姿の三蔵がそこにいた。

「おかえり」

声をかけると、微かに表情が動いた。
ただいま、とか、いってきます、とか。
そんな挨拶が三蔵の口から出ることはないけれど、でも、こうして帰ってきたときにふっと浮かぶ表情が寛いだ感じで、家に帰ってきてほっとしているんだなってのがわかって、少し嬉しくなる。……他の人にはあんまりわかんない表情の動きかもしれないけど。

「あのね……」

軽く引き寄せられて、言葉は途中で止まる。目の上に柔らかいキスが降ってくる。
わけもなく嬉しくなって、見上げる綺麗な顔に笑いかけた。
と、三蔵の手が頬にかかり、そして――。

「相変わらずラブラブだな」

突然、背後から声が響いた。
慌てて振り返ると、廊下の壁に軽くもたれかかった観音がいた。

「てめぇ……」

頭上で三蔵の声がする。
不機嫌そうで、気のせいか、周囲の温度が2、3度下がったような気がする。

「なんでここにいる?」
「ご挨拶だな。可愛い甥の家に飯を食いに来ちゃいけねぇってこともねぇだろう?」
「てめぇんトコにはお抱えのシェフがいるだろうが」
「夏休み中だ」

あっさりと観音が言う。

「じゃあ、外に食いに行けばいいだろうが」
「お前、冷たいな。俺に一人で外で飯を食えと?」
「その気になれば、何人でもつき合わせられる人間はいるだろう」
「例えばお前とか?」

三蔵の眉間の皺が深くなる。

「そう怒るな。たまには俺も『家庭料理』が食いたくなってな」
「そんなもん、それこそ外だって食えるだろうが」

……珍しいよな、と思う。
ここまで突っかかる三蔵なんて。ホント。

「仲が良いよね」

思わずポソリと呟いた。
と途端に三蔵が嫌な顔をした。それにクスリと笑顔を向ける。

「とりあえず着替えてきなよ、三蔵」

さっきのキスのお返しのように軽く頬をすり寄せて言う。
それから。

「もうご飯できるから、観音も座って。もらったワイン、あけるから」

ふたりをそれぞれに追い立てていく。
なんとなく、この組合せでご飯を食べるのも悪くないかなー、なんて思いながら。