寒い夜
人通りの少ない薄暗い道を、急ぎ足で家に向かっていた。
12月が近くなると、いつもなんだか忙しくなる。バイトの帰りが、今日はいつもよりだいぶ遅くなってしまっていた。
急がなきゃ、きっと待ってる。
そう思ってさらに足を速めようとしたところ。
「三蔵」
道の端に佇む三蔵の姿が目に入った。
暗いなかでも僅かな光を反射して金色の髪がキラキラと輝いていて――いつ見てもやっぱり綺麗。
「どうしたんだよ、こんなところで。待つなら教会で待てばいいのに」
言いながら、タタタと駆け寄った。
「どのくらい待ってたんだよ。冷え切ってるじゃないか」
腕を掴むと、冷たい布の感触が返ってきた。
「冷え切ってるのは、お前の方じゃねぇか?」
すると、掴んだ手の上に反対の手が重ねられた。
ついさっきまで水仕事をしてたから、冷たいのは冷たかったんだろうけど、もうそれに慣れてて、今の今まで冷たさなんて感じなかった。
けど、重ねられた手の温かさに、それがわかった。
普段は三蔵の方が冷たいのに。
なんだかヘンなの、と思っていたら。
手を持ち上げられた。
三蔵の口元にと運ばれる。
はぁ、と息が吹きかけられた。
……う。
突然のことで固まる。
「どうした?」
と、不思議そうな声がかかった。
「なんでもない」
そっぽを向く。
「なんだ? もしかして、赤くなってねぇか?」
覗き込まれるように見られるのを、体を捻って避ける。
けどムキになったように、三蔵はしつこく顔を見ようとしてくる。
「もう! いいじゃんか!」
最後の手段で、三蔵の胸に顔を埋めた。
自分でもなんでそんな風に思うのかわかんないんだけど。
息を吹きかけて温めてくれるのが、妙に恥ずかしかったのだ。
クスリと笑う声とともにしっかりと抱き込まれて。
寒いどころか、ぽかぽかと温かくなってきた。