接近 (3)


それからよくわかんないうちに、なし崩しに撮影が始まった。

にしても、撮影ってタイヘン。
あっちにこっちにと動かされて、ポーズを取らされて、にっこり笑って。
眩しいし、熱いし。
終いには、なにがなんだかわかんなくなってきた。

「うーん。なんかちょっと……」
「どれもイマイチだなぁ」

休憩、といわれて、ぐったりと椅子に座り込んでいたら、そんな声が聞こえてきた。
ポラで撮ったやつを見比べている八戒と悟浄だ。

イマイチ、ってことは、まだまだ続くのか、この撮影。
きっとあのふたりが納得するまで続けるんだろうなと思うと、さらにぐったりとしてくる。
と。

「前とおんなじように撮ろうとするからいけねぇんだろうが」

腕を掴まれて立たされた。

「こいつは本職じゃねぇ。笑え、と言われて、簡単に笑えるか」
「本職じゃないのは、あなたも、のはずなんですけどね」
「俺と一緒にするな」

苦笑しながらいう八戒に、切って捨てるように三蔵が言葉を返す。

う。
ということは、俺は使えないヤツってことでしょうか。

ちょっと落ち込む。
でも、まぁ、それはホントのことだけど。
『プレゼントをもらって喜ぶ』ってのが、基本コンセプトらしいんだけど、いきなり『喜べ』『笑え』と言われても、なぁ。
それにしても。

「本職じゃないって、三蔵はモデルじゃないの?」

こんなに綺麗なのに。
天職ともいえるんじゃないかって思うのに。
そう思ってのことだったけど、三蔵が奇妙な顔でこちらを見ているのに気づいた。

なんかヘンなこといったかな。
モデルじゃないの? って聞くことは綺麗って褒めているのと同じことだから、別に失礼じゃないよな。
つらつら考えて。

「あっ」

突然、わかった。
思わず『三蔵』って呼び捨てにしちゃったよ。
だって、結局だれもちゃんと紹介してくんなかったから、知ってるの、それだけだったし。
でもよくよく考えてみれば初対面で呼び捨てってかなり失礼かも。

「あのっ」

言い訳をすべく口を開こうとするけど。
突然、ふっ、と三蔵が笑みを浮かべた。

なに、いまのっ!

至近距離でそんな顔を見て、心臓が跳ね上がる。
思わずぼーっと見とれていたところ。

「こんなのは、どうだ?」

急に三蔵の方に引き寄せられた。
腕のなかに抱き締められる。そしてうなじに柔らかな感触が――。

「お、それ、いいじゃないか。限定品に、お勧めのアジャスターがあるんだ」
「意外と新鮮かもしれませんね。それと手を取ってもらえば、ブレスも見せられますね」

固まった耳に、遠くから悟浄と八戒の声が聞こえる。

ってか、いまのなに? いまのなにっ?!

驚きのあまり、そのまま硬直し続ける俺をよそに撮影は進められ。
気がついたら全部終わっていた。
で。
三蔵もいなくなっていた。

お知り合いになれるチャンスが……。
ものすごく泣きたくなった。






で、その後。
雑誌の写真広告は差し替えられ、猛スピードで印刷にかけたのか、同じものがポスターとして店頭に掲げられた。

後ろ向きの俺のうなじかかる金色の鎖に、微かに笑みを浮かべてキスをする三蔵。

それと同じデザインのアクセサリは瞬く間に売れて、クリスマスを待たずに完売となった。
なんでもいままで三蔵がそんなことをする構図のものはなく、『意中の彼をおとせる』という噂が広まったらしい。
悟浄も八戒もホクホク顔で、特別手当もかなりはずんで貰えた。

けど。
結局、ちゃんと話ができなくて、あんな格好をさせられてた説明もできなくて、化粧までさせられてたから普段の俺とは違くて。
そんなんでは、街ですれ違っても三蔵に話しかけることなんてできない。
これじゃ、イミがないじゃん。
せっかく名前がわかったのに。
つくづく不幸だ。

はあぁぁぁ。

クリスマスはすぐそこで街中浮かれ気分だというのに、出るのは大きな溜息だけだった。