急転 (5)
「ダメっ! ダメったらダメ! 第一、俺、男だぞっ!!」
慌てて手を払って阻止し、大声をあげる。
と。
不意に沈黙が降りた。
「……あ」
なんか我に返る。
うん。
だよね……。
「あの……、ごめんなさい……。これ、別にそういう趣味とかいうわけでなく、えと……成り行き、なんだけど……、えと……」
男がこんな格好してるなんて――変、以外のなにものでもない。
どうしよう。
良い言い訳なんか浮かばない。
ってより。
これでもう――嫌われた、かも。
つん、と目の奥が痛くなる。
けど。
「……別に知ってた」
「へ?」
「お前が男ってことだろ? 知ってたが、それがどうした?」
「え? えぇ?」
ぱしぱしと目を瞬く。涙が奥にと引っ込む。
「だいたいな、ドレスの下がこれってのはねぇだろ」
捲れているスカートをさらに上にたくしあげられる。下に穿いてるのは。
「なにすんだよっ」
スカートを戻そうとするけど、力じゃ敵わない――ってより、このドレス、乱暴に扱うと破けそうで怖い。
ってか、冷静にいまの自分の格好を考えてみると。
うー。
ものすごく間抜けな格好だぞ。
ウェディングドレスなのに――。
「……しょーがねぇだろ。今日、これだったんだし」
って、どういう言い訳してんだよ、俺――と思わなくもない。
「レースの下着に着替えるくらいすりゃあいいのに」
「できるかっ!」
瞬時に却下するけど。
「ま、脱がしちまえば、問題はないが」
いきなりさらりとそんなことを言われた。
「……へ?」
で、よくわからないまま、三蔵の手が――。
「ちょっと、待った! 三蔵、ここ、休憩室――っ」
叫んでみるけど。
ニヤリと笑ったその顔に――。
あとは……。
――――ってダメダメダメ!!
流されるな、俺っ!
「ダメ、ダメ、ダメッ」
ぐいぐいと三蔵を押して引き離そうとする。
でも三蔵は引かず、手が下着に――。
「ここじゃダメ! ここじゃヤダ!」
切羽詰まった声をあげると――突然、するりと三蔵が離れていった。
わかってくれた、とちょっとほっとする反面、なんだか――。
って、違う!
ぐっと拳を握りしめ、自分で自分を叱咤しょうとしたところ。
「じゃあ、逃げんなよ」
立ち上がった三蔵がそんなことを言い出した。
「へ?」
「撮影が終わったあと、裏口で待っとけ」
「はい?」
……なんの話?
よくわからなくて綺麗な顔をぼけっと見上げてると、その綺麗な顔が近づいてきた。
「ここじゃ嫌なんだろ。場所を替えてやる」
耳元で低く囁かれる。
「……なっ!」
その意味は――。
瞬時に顔が赤くなるが――トントンとノックの音がした。
「三蔵、悟空、ちょっといいですか?」
外から声がかかる。
「あ、はーいっ!」
逃げるようにドアに向かう。
だけど気になって、ドアを開けるときに振り返ると――微かに笑みを浮かべる顔。
まるで楽しんでいるような――。
ダメ、だ。
見ちゃ、ダメだ――。
ぐっ、と唇を噛んで、意思の力でドアを開けた。
結局、いままで撮ったやつを使うとかで、撮影はそこで終了した。
脱ぐのはひとりでできると、着替えのために一室に閉じ籠って――そして。
――裏口で待ってろ。
その台詞が頭のなかを巡る。
ドキドキと心臓が音を立てる。
どうしたら――どうしたら、いいんだろ。
ぎゅっ、とドレスを掴んだままで立ちつくしていた。
一応【完】…ですが「
蛇足→」 (別館収納。パスが必要です)