急転 (4)
「結婚式で新婦がブーケを投げるのは知ってるか?」
なんだか悲しい気持ちになっていると、不意にそんな言葉が聞こえてきて、ちょっとびっくりして三蔵の方に向き直る。
話の流れが見えない。
「知って……る、けど?」
「それと同じく新郎も投げるモンがあるんだよ」
「へ?」
「それ」
三蔵が指さしてるのは――。
「え? さっきのガーターってやつ? えぇ?」
だって、このドレスは前が短いからまだいいけど、普通のドレスって長いのに――捲り上げるの?
うわっ、それって――かなりヤバ……って、結婚式のことなのに、そんなことしていいんだろうか。
などと考えて赤くなっていたところ。
「三蔵さん……?」
突然、三蔵が腰を落として、俺の前で跪くような格好をとったので驚く。
「別に三蔵でいい」
わたわたしつつも、そういえば、俺、ちゃんとこの人を紹介してもらってないし、紹介もされてないじゃん、なんてことにいまさら気づいて。
「あ、俺は――」
自己紹介をしようとしたら。
「ちょ、ちょっと、三蔵っ?!」
いきなりスカートを捲られた!
ぎゃっ! って叫び出しそうになったところ、ふっ、と息が太腿にかかった。
な、な、な――っ?!
パニクってるところ、くいっとガーターなるものが引っ張られた。
――三蔵の口で。
三蔵がガーターを咥えて、それで……っ。
「なにやってんだよっ!」
うわっ。なんだ、これ?!
頭に血が登ってくる。
だって、この構図!
自分のことながら、ものすごくヤバイって、この構図。
足の間に三蔵の綺麗な顔って――。
ぎゃーっ。ダメだ、ダメだ、ダメだ。
考えちゃダメだーっ。
とりあえず捲れてるスカートをぐいぐいっと引っ張る。そうだ、いろいろを隠そう!
そんな風にこっちはぐるぐるしてるっていうのに、呑気な声が聞こえてくる。
「なにって、ガータートスのやり方。新郎はこうやって手を使わず、口でガーターを外すんだ」
「冗談!」
「じゃ、ねぇぞ?」
もう一度、綺麗な顔が近づいてくる。
と、また微かな吐息がかかって――。
っていうか、手!
「どこ、触ってんだよっ」
するり、と手が太腿を撫であげていく。
「だから、ガーターを外そうとしてるだけだろうが」
クスクスという笑い声。
それさえ体のうちに響いてくるようで――。
「ちょっと、やめろって!」
三蔵の肩を掴んで、引き離そうとするけど――。
「悟空」
不意に深みのある声で呼ばれた。
「悟空――」
もう一度。
そして手が太腿から上へと伸びていき――。