祈りにも似た声無き叫び(Prologue)



覚えているのは、身を切る寒さと凍てつく光を投げかける月――。



夜の闇のなかを走る、走る、走る。
腕を掴まれて、ほとんど引っ張られるように。
が、突然、その足が止まって背中にぶつかりそうになる。

「お師匠さま?」
荒く息をつきながら尋ねる声は、寒さのためだけではなく震える。
ぎゅっと、今までもきつく掴まれていた手が更に痛いくらいに握られた。
見上げる目に映るのは、見たこともないくらいに厳しい表情を浮かべた顔。
その視線を辿って目を向けた先には、明るく輝く大きな丸い月を背景に、まるで影絵のように浮かび上がる人影。

軽やかに、舞い降りるように、建物の上から人影が降りてきた。
そして、何、と思う間もなく、次の瞬間、銀色の光が炸裂した。
ピシャリと生暖かいものが頬にかかる。

ゆっくりと崩れ落ちていく目の前の存在。

「お師匠さまっ!」

手を出して支えようとする。
だが支えきれるものではなく、地面へと倒れ込む。

広がる赤い血。

ゆっくりと広がっていく血の海を信じられぬ思いでみつめる。
が、不意に影がさした。

顔をあげると、目の前に人が立っていた。
明るい月の光を背にしているので、その顔はよくは見えない。
だけど。

すっと手が伸びてきた。
そして――。