【パラレル(SSオリジナル)】
幼馴染
2006年8月21日
「うっしゃ」
小さく声をかけながら、コントローラを操る。
コイツを倒せば、このステージはクリア。思わず、画面に集中するってもんだ。
と、背後で、部屋の扉が開く音がした。
ふわり、と後ろから抱きしめられる。金色の髪が頬に軽く触れた。
「三蔵、邪魔しないで」
肩を振って肘を張り、両手を自由にしようとする。
チッと舌打ちの音がするが、前に回された腕は素直にはずしてくれた。
「何してるんだ?」
だが、顎は肩にのせたまま。
重いし、うっとおしい。
でも、面倒臭いんでそのままにしておく。
だって、それまでイヤだって言ったら、絶対、騒ぐに決まってる。
「ゲーム。見りゃわかるだろ」
「そりゃ、な。だが、そうまで真剣になるもんか?」
「真剣にもなる……ってゆうか、話しかけるなってっ!」
ぎゃー、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ。
退避。どこかに、退避しなくちゃ……っ。
うわっ。
「……終わったな」
がっくりと肩を落とすと、後ろで、妙に冷静な声がした。
「もう。三蔵のせいだぞ」
怒って振り返るが、嬉しそうな笑みを浮かべているのを見てなんだか脱力する。
どうせ、ゲームが終わったから、構ってもらえるとか思ってるんだ。
「お前、夕飯は?」
もう一度、セーブしたところからやり直そうかな、と意地悪なことを考えていたが、その一言で、コントローラを床に置く。
「三蔵が帰ってこなかったら、カップラーメンか、コンビニに行こうかと思ってた」
「そうか。何が食いたい?」
「中華。青椒肉絲に回鍋肉」
「メインはひとつにしておけよ」
「いーじゃん。両方、食いたい」
三蔵がため息をついて立ち上がる。
「お前も手伝えよ」
「うん」
差し伸べられた手を掴むと、引っ張りあげられた。
そして、そのまま抱きしめられる。
「こらこら」
キスされそうになるのを、両手を出して押し留めた。
「何度も言ってるけど、俺、男だし。三蔵のコト、そんな風には思えないよ」
隣家に住む年上の幼馴染が、突然告白してきたのはつい最近のこと。
天地がひっくり返るほど驚いた。
「……の割には、突き放さねぇよな」
腕のなかに抱きしめられたままでいたことに気づき、なんとなく渋面を作って、その抱擁から抜け出す。
厄介なことに、こうしてもらうのは、別に嫌じゃない。むしろ、三蔵は他の人には絶対触れたがらないから、ちょっと優越感なんか覚えてしまう。
だけど。
「でも、やっぱり可愛い女の子のほうがいいもん」
「そう言ってる割には、彼女、作んねぇし。この間、告白されてたろ?」
「何で知ってるの?」
「いろいろとな。結構、可愛い子だったと思うが?」
……俺も、そう思ったよ。
思ったんだけど。
ちらりと、三蔵の顔を見る。そして、我知らずため息をつく。
この顔がなぁ。
なんだって、こんなに綺麗なんだろ。
でもって、なんだってこんなに綺麗な顔を見慣れるくらい見てるんだろ。
理想も高くなるってもんだ。
「こっちにも、いろいろ事情はあるんだよ」
「ふーん」
微かに、三蔵が笑みを浮かべる。
「ま、お前もそのうちわかる」
何がだよ。
ってゆーか、それ、わかりたくないし。
思わず心の中で、突っ込みを入れる。
「メシ、作るぞ」
頭の中でそんなことをしていたがわかったのか、くすりと笑った三蔵に手を掴まれた。
そして、階下にと連行されていった。