【原作設定】
言葉の使い方


2007年9月14日


 目を開けると同時に金色の光が見えた。
 綺麗だ。
 心のままに手を伸ばした。
 指先に柔らかな感触が伝わる。
 すべすべの心地よい感触。
 なんだか嬉しくなって、もっと手を伸ばす。

「……なにがしたいんだ、お前」

 と、呆れたような声が降ってきた。

「じゃれて、三蔵の気をひいてる」

 金色の髪を指に絡め、もてあそびながら答える。
 それから手を止め、にっこりと笑ってみせた。

「かまって」

 一瞬、三蔵は眉をよせ、それから視線を外して、ふぅとため息をつくように吸っていた煙草の煙を吐き出した。
 むぅ。無視する気か?
 そう思って、唇を尖らせかけるが、三蔵が煙草を灰皿に押しつけたのが見えて機嫌が直る。
 手を差し出すと、寝ていたベッドから引き起こしてくれた。
 ぽふん、と三蔵の胸に抱かれる。
 嬉しくて、えへへと笑っていたら、今度は本当のため息が上から聞こえてきた。
 むむむ。

「なんだよ、それ。愛しい恋人を腕に抱いて、とる態度?」
「なにが恋人だ」
「あ、ひでぇ。じゃ、カラダだけが目当てだったんだな」

 泣くぞ。
 そう宣言して、ぐりぐりと額を三蔵の胸に押しつけたら、軽く頭を小突かれた。

「嘘だよ、ちゃんと知ってる」

 顔をあげて、その綺麗な顔を間近で見る。
 何度見ても見飽きることなく綺麗だと思うその顔。

「大好き」

 心からそう思い、もっと近づいて軽くキスをした。
 ふわん、と抱きしめられる。

「あんまり誘うな」

 耳元で声がする。

「なんで?」
「加減できなくなる」
「加減なんかいらない」

 ぎゅっと抱きつく。

「ちゃんと、全部、ありったけちょうだい。全部、なにもかも」
「――その台詞、明日になって後悔しても遅いぞ」

 押されて、ベッドに沈みこむ。

「今まで、三蔵とえっちして、後悔したことなんてないけど」

 見上げてそう告げれば、微かに三蔵の口の端があがった。

「上等。泣いてカンベンしてくれっていっても、聞かねぇからな」
「泣かないよ。三蔵のために泣いてなんかやらない」

 腕をまわして、三蔵を引き寄せる。

「俺は強いもん」
「……バカ猿」

 内容はともかく、声は優しくて。
 嬉しくて知らずに笑みが浮かんでくる。
 けど。
 その後の台詞はいただけなかった。

「なら、意地でも啼かしてやる」
「意味違うだろ、それ、って……んっ」

 するん、と背中を指が辿る。

「ちょ……っ、いきなり……っ」
「平気だろ。さっきまで散々愛してやったんだから」
「三蔵、言葉の使い方、間違って……る」

 もっと違ったシチュエーションで使えよな。
 そう言いたかったのに、言葉は続かない。
 口を開けば、意味のない声が出そうで。
 ぐっと唇を引き結んだ。

「ちゃんと啼いてみせろよ」

 だけど、甘く低くそんなことを耳元で囁かれて、我慢できなくてぐくもったような声が漏れる。
 満足そうな顔が目に入って、なんだか負けたような気分になるけれど。
 でも。
 次の瞬間に重なってきた唇が――情熱的なキスが、言葉よりもなによりも伝えるものがあって。
 まぁ、いいか、と思う。
 三蔵になら、負けてもかまわない。
 だから。
 湧き上がってくる快楽に身をゆだねた。