【パラレル(金蝉&悟空の親子設定)】
お引っ越し
2008年11月23日
キッチンの荷物をダンボールにつめていると、ペタペタという足音が響いた。
振り返ると、お気に入りのうさぎのぬいぐるみの耳を掴んで引きずっている悟空の小さな姿があった。
「こんぜん」
悟空がうさぎごと抱きついてきた。
振り回されたうさぎが当たったが、まぁ、痛くはないんでそれは無視する。
が、無視できないのは悟空の表情だ。
「どうした?」
口をへの字に曲げている悟空の頭を軽く撫でる。
「お引越し、しなきゃ、ダメ?」
「……新しい家に行くの、楽しみにしてたんじゃないのか?」
これまでこんなことを言われたことはないので、少し戸惑う。
どちらかというと、悟空は新しい家が気に入って、向こうに行ったらあれをするこれをすると楽しそうにしていたはずなのだが。
「今日ね、公園で会った子がいてね。金蝉みたいにキラキラでお姫様みたいにすごくきれぇだったの」
悟空は俯いた。
「もう会えないの、ヤダ」
初恋、だろうか。
泣きそうな顔をしている悟空を見て思う。
当人にとっては深刻な問題だろうが、微笑ましく見える。くしゃりと頭を撫でた。
「お前が忘れないで、ずっと会いたいと思っていれば、いつか会えるさ」
「ほんと?」
「特別な相手とはな」
悟空の小さな手をとる。
「小指と小指が見えない赤い糸で繋がってるんだ。だから、離れていても必ず会える」
悟空はじっと自分の手をみつめた。
そして。
「そっか」
安心したように、にこっと可愛らしく笑った。軽く抱きしめて、ぽんぽんと頭を撫でてやる。
「わかったら、寝ろ。明日は早くに引っ越し屋さんがくるからな」
「うんっ」
元気よく返事をし、悟空はパタパタと寝室に戻っていった。
初恋か。
もうそんなことを言い出すようになったのか、と少し感慨深けに思う。
どんどん大きくなる。そのうちに嫁さんを連れてきて、その嫁さんに取られてしまうのだろうな。
しんみりと思う。
だが、それが悟空の幸せのためなら。
ふぅ、と息をついて、止まっていた手を再開させた。
そして、何年かのち。
悟空はその初恋の相手と再会を果たすことになる。
本当に何年も忘れずにいて、とても嬉しそうな悟空の様子に、普通なら喜んでやるべきところなのだが……。
初恋の相手が『男』とは聞いてない。
しかも、そいつがムカつくガキときては。
そして。
悟空を巡るバトルが始まるわけだが、それはまた別の話である。