【原作寺院設定】
雪
2008年11月19日
夜中にふと目が覚めると、カーテンの向こうが仄かに明るい気がした。
そっと寝台から抜け出して、窓にと向かう。
まだ眠っている綺麗な人を起こさないよう、少しだけカーテンを引いた。
見えた景色に息を呑む。
窓の外は白と黒の風景に変わっていた。
雪が、降っていた。
色を失った世界はいつもとは違う雰囲気で。
夜だからいつもならなにも見えないはずなのに、微かに白く浮かび上がって遠くまで見えるのは、ひどく不思議な感じがして。
目が離せなくなる。
どのくらいその景色を見ていたのだろう。
「そんな格好でなにをしている」
言葉とともに、毛布で包み込まれた。
「三蔵」
あったかい。
「雪、降ってる」
身を委ねながら告げる。
「見りゃわかる」
と、素っ気ない答えが返ってきた。
でもいつものことなんで気にしない。
「いっぱい降って積もるといいね。そしたら――」
肩に触れてきた唇に身を竦める。
「……積もったら、なんだ?」
吐息がかかる。
「積もったら――」
言葉が鼻にかかったように、甘くなる。
でも。
「すき焼きが食える」
あえてふざけてそう断言すると、三蔵が笑い出した。
「そうだな。明日、行ってみるか? ヘンなことを吹き込んだ河童に責任を取らせてやろう」
「ヘンじゃねぇよ。美味しいし、楽しい」
雪は嫌いだった。
音も色もない世界に閉じ込められて、ただひとりだという事実を容赦なく突きつけられるから。
でも。
もうひとりではないことを知った。
楽しいことを知った。
だからもう雪は怖くなくなった。
そして、それだけでなく――。
反転して三蔵を見つめる。
すべてを閉ざす雪。
いまはむしろその方がいいかも、と思う。
このまま降り続いてたくさん積もって、外の世界から三蔵と俺だけを隔離してくれればいい。
「明日は八戒のトコに行こうね」
だけどそんな願いは叶わないことを知っている。
だから口には出さずに三蔵に手を差し伸べた。
いまのこのときが永遠になればいのに。
その想いのように強く三蔵を抱きしめた。