【原作寺院設定】
蜜の夜


2011年11月1日


しん静まり返った執務室で、三蔵はひとり筆を走らせていた。
もう既に真夜中近い時間で、寺院はどこもかしこも静けさに包まれ、もう既に全員が眠りについているらしかった。
最高僧さまひとりを働かせて――ということではもちろんない。
今日の分の書類の決済は、さきほど若い僧が取りにきた分で終わっていた。
そろそろお休みになられては……と声をかけられたのだが、適当に休むから他の者たちは先に休むようにと伝え――いまに至る。

いま見ている書類はどうしても今日やっておかねば、というものでもない。
が、このところ三仏神からの依頼が途絶えていた。そろそろなにかしら言ってきてもおかしくない頃合いだ。ので、できるなら前倒しで進めておきたかった。
なんのかんの言いながらも真面目――と赤い髪の男からからかわれるゆえんである。

三蔵は手にしていた書類を机に置くと、ふぅと息を吐き出した。とりあえずこの書類は終わった。次をどうするか、と考えつつ、煙草に手を伸ばす。
火をつけて、一服したところ。
キィと微かな音とともに扉が開いた。まるでタイミングを計っていたかのように。

机に置かれた灯りは手元を明るく照らしているが、部屋の隅までは光が届いていない。
が、だれか入ってきたかは一目瞭然だった。

薄暗闇のなかに浮かぶ金色の瞳。

三蔵の目か微かに見開かれた。
常とは違い、金色の瞳はまるでそれ自体が輝いているかのように蟲惑的な光を浮かべていた。

が、三蔵を驚かせたのは、いつもとは違う瞳の色だけではなかった。
足音も立てずに近づいてくる小柄な影。袖を通しただけの大きめの白いシャツが歩くたびにふわりふわりと揺れる。

シャツの下は―――――……。


「……珍しいな」


机の前まできたところで、三蔵が口を開いた。
悟空は無言のまま机を回り、三蔵の横にと立った。三蔵を見下ろすようにして、ようやく言葉は発する。


「我慢するな……っていつも言ってないっけ?」

「確かに、な」


微かに三蔵の唇の端があがる。


「ね、もうそんなの、終わりにしよ」


悟空は横目で書類を見る。


「違うこと、しよ」


にっこりと笑い、三蔵の横に跪く。ふわり、と空気が揺れ、うえに羽織っているだけのシャツがしどけなくはだけた。
よくよく見ればそれは三蔵の私服だ。道理で少し悟空には大きいはずである。

じっと金色の瞳で三蔵を見つめたまま、悟空はそっと三蔵の手を取り、自分の口元にと指先を持っていった。
ちろり、と赤い舌が覗いた。
ゆっくりと中指の先端を舐める。二、三度舌を往復させてなぶるように舐め、それから小さく口を開けて、中指とそして人差し指を口に含んだ。
軽く吸いついてきたところ、ちゅく、っという水音がした。それはやけに大きく執務室のなかに響いた。


「誘っているのか?」


ちゅくちゅくと音をさせるようにして指を吸う悟空に、三蔵は問いかける。


「……悪い?」


しばらくして悟空が上目遣いに見ながら答えた。溶けて、ねっとりと絡みついてくるような金色の瞳。
三蔵の笑みは深くなり、どこか面白がってでもいるような――意地悪そうな笑みと変わる。
だが、とても綺麗な――……。


「そうか」


三蔵は、再び指を咥えた悟空の頭に手をやる。軽く撫でてやり、それから。


「なら、その気にさせてみろ」


言葉と同時に頭を押して、もっと深く指を咥えこませた。喉の奥にあたるくらいに。
それから今度は指を引く。もう少しで指が抜けそうになったところで、また悟空の口にと押し込んだ。
押して引いてを繰り返す。それは、まるで――。


「……っ」


突然の予期せぬ激しさに、やめて欲しいかのように悟空は三蔵の手を掴んだ。が、動きは止まらない。
じんじんと頭の芯が痺れていくようだった。呼吸もうまくできなくて、苦しくなっていく。
やがて苦しいのか、それとも生理的なものなのか、悟空の目の端から透明な雫が零れ落ちた。

と、指の動きを止めて三蔵がゆっくりと顔を近づけていった。
近づいていくのと同じくゆっくりとした動作で涙を舐めとる。

ぴくん、と悟空が体を竦めた。
なんだか舌の濡れた感触が生々しくて、思わず目を閉じる。


「欲しいのか?」


低い――熱を孕んだ囁き声がする。


「欲しいなら――わからせてみろ」


耳元に息が吹きかけられ、悟空の背中をなにかがぞくりと走り抜けていく。
重いような熱いような感覚が中心に集まってきて力が入らなくなっていく。


「ちゃんとその気にさせてみろ」


挑発するような言葉に、微かに震えながら悟空はゆっくりと目を開け。





そして――――……。


(memo)
 みなづきさまのサイト「月の宴」の別館に収納されていたイラストに「きゃーっ(///∇//)」となって走り書いたものです。
 ハロウィン用のイラストだったんですが、すみません、この話自体はハロウィンとは関係ないです(^^;
 なんか悟空が凄い艶っぽかったんですよ! 誘い受け、いいですね!
 …が、私の力量ではココまでです。どなたか続きを書いてくださいませんかね?←
 みなづきさま、いつもいつも素敵な萌えイラストをありがとうございます!
 ちなみに別館は18歳以上入場可のところですのでご注意を!