【パラレル(仔猫設定)】
ちゃんとかまって、ね?


2009年2月22日


明るい日差しの差し込む宿屋の一室で、三蔵は仔猫と攻防を繰り広げていた。

「一緒に行くー」

にゃあにゃあと鳴いて飛びついてくる仔猫を三蔵は避けようとするが、仔猫の方でもその動きを読んでいたらしく、タシッと着物にしがみつかれる。それから仔猫は、着物の合わせ目からその懐に潜り込んできた。
最初に出会ったときに懐に入れて連れ歩いたせいか、そこが自分の場所だと思いこんでいるようだ。

「こら。一緒には連れてけねぇといってるだろうが」

三蔵は仔猫の首根っこを掴まえて、懐から引きずり出す。

「やあぁっ!」

じたじたと仔猫は手足を動かして抵抗する。

「やだやだやだもんっ。三蔵の馬鹿ぁっ」

うるさくみゃあみゃあ鳴くのを無視して、三蔵は仔猫を寝台に放り投げた。だが、ふわりと綺麗に着地すると、仔猫は懲りずに三蔵の方にと駆け寄ってくる。

「一緒がいいっ」

ほとんど駄々をこねる子供と一緒だ。
三蔵は眉間に皺を寄せて、仔猫を寝台に押さえつけた。

「仕事なんだ。聞き分けろ。捨ててくぞ」

その言葉に、仔猫はピタリと動きを止めた。
が。

「三蔵、このとこ全然かまってくんないんだもんっ。淋しいもんっ。お腹だって、すいてるんだもんっ」

今度はえぐえぐと泣き出す。
そのなんとも可愛らしい姿に、三蔵は溜息をついた。

いくら可愛く泣かれても、いまから行く場所には魔物は連れて行けない。
そう。こんな可愛らしい姿をしているが、この仔猫は魔物だ。
人の精気を糧にしている魔物。

三蔵はふぅっと息を吐き出した。
押さえていた手の力を抜いて、柔らかい茶色の毛並を撫でてやる。
かまってやっていなかったからか、確かに少し毛艶が悪くなって手触りも悪くなっている気がする。

連れて行ってはやれないが――。

「とりあえず腹は満たしてやるよ」

その言葉に金色の瞳が三蔵を見上げた。
パチパチと瞬きをし、それから嬉しそうに一声みゃあと鳴くと、すりすりと三蔵の手にすり寄ってくる。
そして。
ふわり、とその姿が少年のものにと変わった。

「悟空」

名を呼んでやると飛びついてきた。
満面に笑みを浮かべる顔に軽くキスを落とすと、三蔵はしなやかな肢体をそっとベッドに押し倒した。


(memo)
 2月22日の猫の日用のお話でした。
 …実は別館用のお話の設定です。すみません。