【パラレル設定(NovelTopOriginal近未来)】
替え玉



「俺と斉天と、どこが違うっていうの? 俺は斉天そのものなのに」
 目に涙を溜めて、それでも強い眼差しで、目の前の子供が問いかけてくる。
「お前と斉天は別人だよ」
「違う。同じものだ。だって、俺は斉天の代わりに、斉天から作られたんだから」
 子供の言うことに嘘はない。
 この子供は、大地と人を繋ぐ唯一の巫子だった斉天の遺伝子から作られたもの。
 理論的に言えば、斉天とまったく同じ存在。
 だが。
 まったく同じ遺伝子を持っていても、育つ環境が違えば、オリジナルとまったく同じ人間になることはないのだ。
「代わりにはちゃんとなれてる。お前は役目を果たしているんだから、斉天と同じでなくても構わないだろう。どっちにしても、お偉いさんたち(ジジィども)は、お前が斉天でないなどと、夢にも思っていないんだし」
「別に他の人はどうでもいい。三蔵が俺と斉天が同じだって認めてくれなきゃ、意味がない」
「それこそ意味がねぇだろ。俺が認めようが、認めなかろうが、なにが変わるわけでもない」
「変わるよ。俺はちゃんと斉天になって、それでちゃんと三蔵に好きになってもらいたいんだ。三蔵だって、俺よりも斉天から好かれたほうが嬉しいだろ?」
 その言葉にため息をつく。
 この議論は、何度やっても堂々巡りだ。いい加減にしてくれ、と思う。
 だいたい、オリジナルとまったく同じであることになんの意味がある?
 もうここに、オリジナルとは別のものとして存在しているというのに。
 自分は自分で、オリジナルとは違うと言われた方が、普通は嬉しくはないだろうか。
「お前は斉天にはなれねぇよ。仮になれたとしたら、そのときにはもう俺を好きじゃなくなるんだから、それこそ意味はねぇだろう」
「そんなことない。ずっと――ずっと好きだよ」
「それじゃあ、斉天じゃない。斉天は俺を決して好きにはならなかったし、もし生きていたとしても、これから先、俺を好きにはなることはないだろう。斉天が好きなのは、俺によく似た別の男だ」
 同じ髪の色。同じ目の色の――別の男。
「お前はお前だ。それのどこが悪い?」
「でも、それじゃ、三蔵が俺を好きになってくれない」
 ぽろぽろと涙を流しながら、見つめてくる子供。
 その姿に、正直にいって心が動かされないわけではない。
 だが、子供の言葉を否定する言葉は返せない。
 やがて、子供はぐっと唇を引き結ぶと、くるりと向きを変え、部屋を飛び出していった。
 我知らず、もう一度、ため息をつく。
 斉天が自分の死後、自分とまったく同じ遺伝子を持つあの子供を残していったのに、どういう意味があるのだろう。
 永遠なんて信じない。
 その言葉を実践しようというのだろうか。
 同じ遺伝子を持ちながら、まったくの別人であるあの子供に俺が惹かれれば、ずっと言い続けていた言葉のすべてが嘘になるから。
 それとも、自分の死後もなお、同じでありながらまったく違うあの子供を見て、自分を思い出さずにはいられないようにするためか。
 死してなお、自分に縛り付けておこうというのだろうか。
 どちらにしても。
「斉天……」
 その手に上で弄ばれているだけなのだろう。
 永遠に――。