【パラレル設定(NovelTopOriginal義兄弟?)】
わがまま



「八戒〜」
 授業が終わるとともに、自分の教室から飛び出してきた悟空が、1階下の教室に飛び込んでくる。
 それは、いつもの光景。
「おやつ。おやつ。今日はね、アップルパイが食べたいっ」
「アップルパイですか? 結構手間がかかるんで、すぐにはできないんですけど」
 困ったように言いながらも、仔犬のようにまとわりついてくる悟空に、八戒は嫌な顔は向けない。
「えぇ? そうなの? でも食べたい。あったかいのに、アイスクリームをつけたやつ」
「時間がかかりますけど、いいですか?」
「む〜」
「じゃあ、できるまでにちょっとしたものを作りますか」
「わーい。ありがと」
 ぱぁっと顔を輝かせて悟空が言う。
「ごじょー」
 それから悟浄の元に赴く。
「今日、新しいゲーム買うんだろ? 俺も行く」
「で、俺より先にやるつもりか?」
「そんなこと言ってないじゃんか。対戦ゲームだろ? 一緒にやったほうが面白いよ」
「お前とか?」
「嫌ならいいもん。焔も買うって言ってたから、焔とやる」
「まぁ、待てって。やらないとは言ってねぇだろ」
 くしゃりと悟浄が悟空の髪をかき混ぜて、立ち上がる。
「八戒、悟浄のトコにいるから、よろしくね」
 悟浄のあとについて行きながら、悟空が言う。
「さんぞー、後でね」
 そして扉のところで、教室の奥の方にいる三蔵に声をかけて出ていく。
 これもいつも通りの光景。

 そして夜。
「スペル間違い」
 パコン、と教科書を丸めたもので、悟空は頭を叩かれた。
「痛い。もう、三蔵は全然優しくない」
 ブツブツ言いながらも、指摘されたところの英単語を直す。
「よし、これで終わり。三蔵、ありがと」
 トントン、と机の上の本をとりあげて、整理して。
 悟空は立ち上がった。
「ったく、勉強なら八戒が見てくれるだろうが」
「三蔵がいいの」
「わがまま」
「俺、わがままじゃないもん」
「……お前、どの口でそんなことを言う」
「だって、わがままって相手のことを考えないってことでしょ? 俺、そんなことはしてないよ。皆、喜んでるもん」
 その台詞に、三蔵がはぁとため息をついた。
 確かに悟空の周囲の人間は、嬉々として悟空につきあっている。
 むしろ、わがままを言われることを喜んでいる節がある。
「わがままはね、ひとつだけ」
 すっと悟空が三蔵のそばに近づいていった。
「ずっと俺のこと、好きでいてね」
 それから軽く唇を触れ合わせ、離れていく。
「光明を手伝ってくるね。今日は、ハンバーグだって」
 パタパタと足音が遠ざかっていった。
 一人残された部屋で、三蔵は呟いた。
「……それこそ、わがままじゃねぇよ」