染まる一色 (5)


昨夜に三蔵が衝動に任せたままキスをした後、悟空は何も言わず、逃げるように帰っていった。
突然、それも同性にキスをされた次の日に普通の顔して来れるわけがない。
もしかするとこのまま会わないかもしれないが、三蔵はもうそれでも良かった。
きっと悟空は自分の事を忘れない。
それがどんな感情だったとしても、忘れないだろう。
初めて心を動かされた存在に、ただその記憶の片隅にでも残れればいいかと思ってしまったのだ。
きっと、これ以上一緒にいたらその全てが欲しくなる。
悟空の意思すら無視してしまうだろう。
これほどの激情を抱いたのは初めてだった。
自分はきっと忘れることは無いけれども、悟空のその記憶の片隅にでもいられると分かっていれば、それでいいのだ。


結局、滞在予定の最終日になっても悟空が姿を現すことは無かった。
それでも玄関には食材は置かれているので、悟空は三蔵に気づかれぬようにここに来ているのかも知れなかった。
身支度を終え、荷物も全て車に積んでしまえば後は帰るだけとなり、三蔵は後ろ髪引かれる思いをしつつも最後にと煙草を取り出す。
今後、二度と訪れることがかなわないかもしれない。
そんなことを思いつつ煙草に火をつけようとして、呼び鈴が鳴ったためにその手を止めた。
毎回のように管理人が挨拶に来たのだろう。
三蔵は煙草をしまい、玄関に立った。
ゆっくりと開けたドアの外には、思いもよらぬ人物がいた。
もう逢うこともないと思っていたはずの悟空が、まっすぐに三蔵を見つめていた。
「お前……どうして」
「三蔵に、聞きたいことがあったから」
「聞きたいこと?」
伺うようにその瞳を覗き込めば、何かを決心したような強い光がそこにあった。
まるで三蔵の想いを見透かそうとすような強さ。
「そう。どうして、俺にキスしたの?」
単刀直入、としか言いようの無い言葉に三蔵は口を噤む。
なんて答えて良いのか分からない。
「俺の事が気に入らなくて、嫌がらせしたの? それとも、誰とでもああいうことするわけ?」
答えずにいれば、まるで非難するように言い募る悟空に三蔵は慌ててそうじゃないと首を振った。
「嫌いなやつにわざわざする趣味はねぇよ」
「じゃあ、どうして?」
「それは……」
なかなかに理由を言わない三蔵に、悟空はゆっくりと口を開いた。
「俺は、嫌じゃなかったよ。三蔵は、どうして?」
それを聞いた三蔵は驚いたように目を見開いて、悟空の顔を覗き込んだ。
次の瞬間には顔を赤くしてそれを隠すかのように片手で顔を覆う。
「好き、じゃなかったらしてねぇよ」
本当に、消えるほどに小さな呟きだったが、悟空はその言葉に酷く嬉しそうに笑った。


砂月空さま/雪蓮花


砂月空さまのサイト「雪蓮花」で3000hitを踏み抜き、きゃーきゃー言いながらリクエストさせていただきました。
「行きずりの恋」などというものを。
で、できあがってきたのが…。
予想以上です。なんか、三蔵がすごく良かったです。一人でぐるぐる回っているのが、すごく…なんか可愛らしくて。とても新鮮でしたv
でもって、ラストはやっぱり悟空から(笑) それもとっても「らしい」と思いました。
砂月さま。無茶なリクエストにステキなお話を返してくださり、ありがとうございました。
リクエスト以外にも無茶なことをいってるかもしれませんが(汗)、今後もよろしくお願いします。