夜露がぬらす君の頬
月が煌々と照らす公園の芝の上、身動きできない三蔵が自分を押さえつけ、赤い唇を楽しそうに歪める少年を睨み上げていた。
「離せっ!」
「嫌だ」
頭上に一つにまとめ上げられ、女のように押さえつけられた身体を捩る。
「ダメだって言ってんじゃん。今日こそ俺に抱かれてよね」
つうっと指で三蔵の朱の上った頬を撫で、唇の形をなぞる。
押さえつける自分を睨む怒りに染まった紫暗に獣の形の光彩が黄金の光を放つ。
「離せ、くそザル」
言うなり、唇をなぞっていた少年の指に三蔵は力一杯噛みついた。
「…つっ!」
反射的に噛まれた指を振りほどいて、三蔵の頬が乾いた音を立てた。
「ダメだなあ、噛んだら、さ」
血の滲んだ指を舐めて、少年は嗤った。
そして、自分が殴って切れ、血の滲む三蔵の口を愛しそうに舐め上げた。
「その強気が好きだよ、三蔵」
「悟空っ!」
耳元で囁いて、悟空は三蔵の首筋に自分が付けた二つの小さな傷口に唇を寄せた。
啄むように口付け、空いた手が三蔵の身体を意図を持って撫でる。
そのたびに這い上がってくる感覚に、三蔵は身体を震わせた。
最近増えてきた悟空の狂態。
月に何度か飢えた悟空に三蔵の血を与える。
人の命を啜る行為。
人の命を糧として生きる夜の一族。
それが、悟空。
三蔵の恋人であり捕食者。
それが、最近、三蔵の血を吸ったあと、三蔵の血に酔ったように凶暴な牙を剥く。
出逢ったあの日、悟空に投げ出した身体をどう扱われようと構わない。
けれど、こんなのは嫌だった。
まるで所有物を嬲るようなこんなのは。
自分の身体を力尽くで拓こうとするこんな行為は望んではいない。
差し出せと真摯に願うのなら、きっと喜んでこの身体を悟空の前に差し出しただろう。
しかし、こんなのはどんなことになっても、何があっても三蔵は承知出来なかった。
三蔵は自分の身体に夢中になってきた悟空の押さえ込む力が緩んだことに気付くと、力の入らない足で力一杯悟空の身体を蹴り上げた。
ついでに先程のお返しとばかり、殴り付ける。
不意を突かれた悟空は見事に三蔵の身体から転げ落ち、芝生に尻餅をついた格好で驚いたように三蔵を見つめていた。
「……さ……ん、ぞ…?」
三蔵の名前を呟いた声とその瞳にいつもの光が見えた。
その途端、ぽろりと、三蔵の頬を転がり落ちるモノがあった。
「さ、三蔵!」
その透明な雫に悟空が驚いて駆け寄ると、三蔵の身体を抱きしめた。
「ど、どうしたんだ?三蔵」
狼狽える悟空の姿と声に三蔵はほっと体の力を抜いた。
そして、
「いい…何でもねぇ…」
そう言って、悟空の背中に腕を回した。
michikoさま/AQUA