柳は緑 花は紅 (1)
扉の開く音に、寝室の床に座り込んで絵を描いていた悟空の顔があがった。
「おかえりー」
声をかけつつ、扉の方を向く。
「あぁ」
三蔵は短く返事をすると、無造作に着ているものを脱いではその辺に放り投げた。
それはいつもよりも煌びやかな法衣。
それもそのはず。今日は元旦だ。
昨夜から今日のお昼すぎの今まで、三蔵は慶雲院で行われる新年を祝う法会に出席させられていた。
『させられていた』というのは本人の気持ち的なものであって、実際にはこの慶雲院の最高責任者である三蔵に命令できるものはいない。
が、『面倒だから』という理由で放棄できないことも多々ある。
そのひとつがこの大晦日から元旦にかけて行われる法会であった。
三蔵は不機嫌そうな顔を隠そうともせず、脱ぎ散らかした服をひとまとめにして部屋の隅にと置いた。
そこにとてとてと悟空が寄ってくる。
「おかえり」
「お前、それ、さっきもいっただろうが」
「うん。でも……」
そっと手を伸ばし、悟空は三蔵の着物の袂を捕まえた。
「さっきのカッコ、綺麗だったけど、三蔵じゃないみたいだったから。今、ちゃんと三蔵が戻ってきてくれたみたいだったから」
その言葉に三蔵が眉間に皺が寄る。
「なんの話だ。いつも人語をしゃべれといってるだろ」
「ん。いいよ、わかんなくても。それより、お茶でも飲む? 疲れただろ」
「いや、寝る」
「そっか」
ぱっと悟空は袂から手を離した。
「おやすみなさい。俺、今日は静かにしてるから」
悟空はそういって、そっと部屋を出て行こうとする。
「悟空」
が、その背に声がかかった。
振り向くと、寝台に横になった三蔵が、掛け布団の端を持ち上げていた。
「本殿はもの凄く寒かったんだ。お前、湯たんぽの代わりをしろ」
その言葉に、ぱっと悟空は顔を輝かせ、三蔵のもとに走り寄った。