柳は緑 花は紅 (2)
「さ、むい……」
プルプルと悟空は布団のなかで震えた。
風呂から出たらすぐに寝ろと言われた。その言葉に従ってすぐに布団に入って、布団も余分にかけてくれたから暖かいはずなのだが。
でも。
さきほど窓の外を覗いたときに雪が見えた。
細かい雪。
『積もるほど降らねぇよ』と悟空が潜り込んだ布団をパタパタと叩いて空気を逃がしてくれながら三蔵は言っていたが。
見えない、ということは想像力をかきたたせることで。
悟空の頭のなかでは、外は一面の銀世界になっていた。
雪。
白い雪。
すべてが静寂に覆われる――。
違う、違う。
頭からすっぽりと布団を被り、小さくなりつつも、悟空は必死になって自分が作り上げたイメージを壊そうとする。
そんなことはない。
たぶんもう雪はやんでしまっているはず。
だって音も聞こえない。
でも。
そうやって考えるそばから、暗い考えは追いついてきて。
雪が降っているときも音は消える。
そんなことを思ってしまう。
そうなると、もうダメで。
――怖い。
いつのまにか『寒い』は『怖い』に変わる。
いや。
もとから寒さは感じていなかった。感じていたのは――身も凍るほどの恐怖。
一層小さく縮こまったとき。
バタン、と扉が開いた。
そして。
「寒ぃ。つめろ」
布団がめくられた。
「さ、さんぞ?」
暗がりに浮かぶシルエット。だがそれだけでも三蔵だとわかる。
その三蔵が、悟空の布団のなかに潜り込もうとしていた。
「なに? どうしたの? 仕事は?」
まだ仕事が残っている。
そういって悟空を寝かしつけたあと、執務室に戻ったはずなのだが。
「こんなに寒ぃなか、仕事なんかしてられっか。明日だ、明日。それよりそんな端に行くな」
三蔵が入ってくるので、ずりずりと寝台の端まで寄った悟空は、腕を掴まれて三蔵の方にと引き寄せられた。
「湯たんぽの代わりにならんだろうが」
そういって抱きとめられる腕。
確かな、自分以外の存在。
「さんぞぉ」
悟空は少し泣きそうな声をあげた。