The Apple of the Eye (11)
「お前、八戒のトコは引き払え」
ベッドの中で、三蔵に後ろから抱きしめられて、そう言われた。
ちゃんとシタくせに、やっぱり狭いと三蔵が言い出して、ソファーからベッドにと場所を移していた。
まだ、やるの? と聞いた言葉に、全然足りねぇよ、という答えが返ってきた。
で、もう何回したのかなんてわかんない。
もしかして、もう明るくなり始めてるんじゃないだろうか。
「引き払えと言われても、すぐ下が職場で便利だし、別のトコで一人暮らしができるほど裕福じゃないんだよ」
「だから、ここで暮らせばいいだろ」
驚いて、体を反転させて三蔵と向かい合った。冗談を言っている顔には見えなかった。
「ついでにあの店も辞めろ」
「……あのね、三蔵。辞めたら、金が入って来ないだろ」
一人で生きるために住み込みの仕事を探してた。こちらの働ける条件が厳しくて見つかったのが奇跡だと思えるほどなのに。いくら三蔵の言葉でも、そう簡単には辞めれない。
「だいたい衣食住の他に学費がかかるんだから。まぁ、奨学金受けているから学費はそれほどでもないんだけど、大学に行く資金だって貯めたいし。来年は無理だろうけど」
「奨学金? 来年、大学?」
「そう。十八歳になったばっかり。高校三年生。いくつだと思ってたの、俺のこと」
なんだかあからさまに驚いた表情をしている三蔵に問いかけた。
「十四、五」
「三蔵、それって、犯罪じゃないの?」
ちょっとムッとしてそう言ってみるが、三蔵は知らん顔をしている。もう。
「掃除、洗濯、料理、できるな?」
そして、突然、話題が飛んだ。何なんだよ、と思いつつ頷いた。
「じゃあ、ここで住み込みの家政婦をしろ。給料はちゃんと払う。大学に行きたいなら、出世払いでローンを組んでやってもいいぞ」
「でも、だって、三蔵、そんなお金……」
三蔵、若そうなのに。人を雇えるほどの給料をもらっているの?
「言っておくが、俺はまだ大学院生だ。だが、ありがたくもない、遺産ってやつがあるんだよ。お前を大学に行かせて、一生養えるくらいの、な」
「なんか、プロポーズみたい」
冗談っぽく言って、クスッと笑った。けど、三蔵は大真面目に答えた。
「あぁ。いっそのこと、嫁に来い。不自由はさせねぇから」
ぎゅっと抱きしめられた。
うわっ。なんだろ。眩暈がする。幸せすぎて、嘘みたいだ。
「三蔵って、亭主関白になりそうだよね」
「それはOKってことだな」
自分勝手に解釈する三蔵にちょっと呆れる。でも。
返事に代えるかのように、伸び上がって、三蔵の唇にキスをした。
【完】