The Apple of the Eye (10)
まるで大切なものを扱うかのように、そっと頬に手が添えられた。
「それは、俺も同じだな。初めて会ったときから惹かれていた」
三蔵の言葉にびっくりする。
「でも、だって、三蔵……」
「初めは否定しようと思っていた。だが、二度目に会ったときに――」
三蔵はそう言って、ふっと笑った。
「ここ、だったな。初めてお前を抱いたのは」
その言葉に、顔が赤くなる。
「すぐに欲しくて、我慢がきかなかった。ベッドに運んでやる余裕もないくらいだった」
「嘘……」
だって、余裕綽綽に見えたのに。
「だから、朝起きて、お前がいなくなっているのに気付いたとき、たまらない気持ちになった。最初から何の抵抗もしなかったのは、ただ単に一夜の宿を借りたかったからなのかと思った」
三蔵の目に浮かんでいるのは、紛れもない痛みで。
「ごめ……んなさ……」
唇が震える。
「俺、三蔵にとっては、ただの気まぐれで声をかけた相手なのかと思っていた。だから、朝になって三蔵に『まだここにいるのか』なんて言われたら、立ち直れないと思った。そんなことになったら、もう一人で立てない。だから、逃げた。でも、ちゃんと言えば良かった」
涙が溢れてきた。
涙腺、馬鹿になっちゃったのかも。人を傷つけておいて、自分が泣くなんて。
「ごめ……。三蔵のこと、傷つけたのは俺なのに。涙、止まらな――」
優しくキスされた。深いキスではなく、そっと、ついばむように触れてくる。なんだか安心できて、落ち着いてきた。
「それは俺も同じだろうが。ちゃんと言えば、良かったんだ。お前に惹かれているって」
三蔵の顔に笑みが浮かんだ。それからその笑みが寄ってきて、耳元で囁かれた。
「そして、今も、お前が欲しくてたまらないと」
その言葉に、頭の芯が痺れてクラクラとしてきた。
「悪い。やっぱり、余裕ない」
決して乱暴ではなく、まるで壊れ物を扱うかのように柔らかくソファーに押し倒された。
こちらを見下ろす紫暗の瞳に優しい色が浮かんでいた。
それだけで、凄く嬉しくなった。
「いいよ、三蔵……」
だから、三蔵の首に手を回した。
「きて」
そっと目を閉じた。