To Know Him is to Love Him (7)
「……大丈夫か?」
「うん……でも、そうでもないかも」
しばらくして唇が離れていくと、本当に力が入らなくて三蔵の方にともたれかかった。
「あれ、そういえば、焔は?」
見渡す周囲には、誰もいない。
「知るか」
そう言い捨てた三蔵に、また唇を塞がれた。
これは嫉妬だろうか。だとしたら嬉しい。
けれど。
「もう……駄目……」
膝がガクンと落ちる。三蔵が慌てたように手を回し、そして、抱き上げられた。
「三蔵……」
胸に額を押し当てて囁く。
「もし、俺に飽きたらちゃんと言ってね。困らせたりしないから、ちゃんと切り捨ててね」
そうしなければ、いつまでも心が残って逆に三蔵を困らせる。
焔の時でさえ、自分を納得させるのにあんなに時間がかかったのだ。言われなくても、本当に好かれていたわけでないことはわかっていたのに。
もしも三蔵に別れを告げられたら、きっとその場で心は死ぬだろうけど。
でも、ただひとつ希うのは三蔵の幸せだから。
それだけだから。
困らせたりはしたくない。
「手放す気はないと言っただろう」
力強く、息もできないくらいにぎゅっと抱きしめられた。
「というよりも、放してやらない。お前が嫌だといっても、ずっと閉じ込めておく」
「三蔵……」
「お前こそ、どこにも行くな……」
どこか哀願するように響くその囁きにびっくりする。
顔をあげると、三蔵の視線とぶつかった。
深い紫暗の瞳に浮かぶのは――何だろう。哀しみ?
「行かない。三蔵のそばにいる。ずっと、一緒にいる」
手を伸ばしてふわりと抱きつき、頬をくっつけるようにして三蔵の耳に囁く。
もう一度、抱きしめられ、そして。
「帰るぞ」
ぶっきら棒な、なんとなく照れたような声が聞こえてきた。
三蔵の肩越しに、金蝉のお墓を見る。
金蝉。俺は大丈夫だよ。わかってくれた?
心の中で囁いて、空を見上げる。
抜けるような青い空。もしかしたら、そっちから見守ってくれてるのかもしれないけど。
この人がいるから大丈夫。
そっと目を閉じて、三蔵の肩に頭を預けた。
【完】