To Know Him is to Love Him (6)
離れていく。
そう思ったのは束の間で、掴んだ袖口はそのままに、両手を頬に添えられた。
「三蔵……」
視界に入るのは綺麗な三蔵の顔だけ。
もう他は目に入らない。他のことは頭から消える。
「三蔵が、好きだよ。金蝉の代わりとかじゃなくて、三蔵が好き」
一生懸命に言葉を紡ぐ。
信じてほしい。ただ、それだけ。でも、どう言ったら、ちゃんと伝わる?
うまく言葉に表せないもどかしさに、胸が痛んでくる。
だけど。
「知ってる」
三蔵が短く答えた。
「さん――」
無性に泣きたくなった。悲しいわけではなく――。
どうして、この人はいつもただの一言で、恐れや焦りや不安などを跡形もなく消してしまうのだろう。
三蔵の顔が近づいてくる。柔らかく、啄ばむように何度もキスを交わす。
「お前の心が弱くなっているときに保護者によく似た俺と会ったからこうなったわけじゃない、と言いたいのだろう?それは状況がたまたまそうだっただけだと」
何度目かのキスの後に、触れ合うほど近くで三蔵が囁く。
袖口を掴んでいる手を滑らせて、三蔵の腕を掴む。何かに縋りつきたくて。でないと、甘い痺れに侵された力の入らない体が崩れ落ちてしまいそう。
と、三蔵の手が腰に回った。支えられて、隙間がないくらいまで近くに引き寄せられる。
「俺が誰に似てようが、お前がどんな状態であろうが一緒だ。どんな場所でも、どんな時でも、出会ってしまえばこうなっている。それまで全然互いを知らなかったとしても、目が合った瞬間に、な」
軽く目の上にキスされる。
「別に不思議なことじゃない。こういうのを表す一般的な言葉があるだろう」
三蔵が笑みを浮かべた。
「一目惚れ、っていうな」
その言葉に、なんだか、何もかもがあるべきところに落ち着いたような気がした。
出会ってすぐにそういう関係になって。
どうして、こんなに好きなのかわからなくて。
どうして、三蔵が俺を好きになってくれたのかわからなくて。
理由をみつけられなくて、少し不安に思っていた。でも。
そんなの、必要ないんだ。
「三蔵。大好き」
嬉しくて、クスクスと笑う。
首に手を回して、背伸びをすると、三蔵の唇に自分から触れた。でも、すぐに三蔵に主導権を奪われて、激しいキスにもう何もわからなくなった。