Little Ordinaries (2)


ドンッ、ドンッという音が響いた。

「あれ? もしかして、花火?」

ダイニングテーブルに皿を並べていた手を止めて、窓の外を見る。

「あぁ、そう言えばそんな季節か。そっちのベランダから見えるはずだが」

新聞を読んでいた三蔵が顔をあげて、リビングの方を顎でしゃくった。
とてとてと歩いていって、窓を開ける。途端にむっとした空気が流れ込んできた。昼間晴れてかなり暑かったから、日が落ちてもなかなか気温が下がらないみたい。
今日は熱帯夜だな、と思いつつ、空を見上げる。
と、空に一面に花火が広がった。

「きれー」

赤やオレンジ、黄色や緑。色とりどりの花火が浮かび上がっては消えていく。中にはピンクのハート型みたいのもあって、ちょっとびっくりする。
しばらく、ずっと空を見上げていたら。

「おい、メシは?」

後ろから声をかけられた。

「あとで。三蔵もこっち来て見たら? 綺麗だよ」

相変わらず空を見上げながら答えた。三蔵がフンと鼻を鳴らしたのが聞こえてきた。
三蔵って、あんまり『綺麗なモノ』に興味ないみたい。自分があれだけ綺麗だとそうなっちゃうのかもしれないけど。それに、暑いのも苦手。俺はいくら暑くても平気だけど。
金色の光が幾筋も、流れ落ちるみたいに空から降ってくる。

「ふわぁ」

感嘆の声をあげていたところ、いきなり後ろから抱きしめられた。

「……三蔵、暑くない?」

しばらく、そのままの姿勢で花火を見ていたが、さすがに暑くなってきて三蔵に聞く。

「なら、中に入れ」
「ヤダ。花火、見たい」

俺でさえ暑いのだから、三蔵はもっと暑いと思っているんじゃなかろうか。俺の方が体温、高いし。
そのうちに根をあげて部屋に入るだろうと思っていたら、三蔵が首筋に顔を埋めてきた。頬に三蔵の柔らかい髪の毛が軽くあたる。そして。

「あっ」

思わず、声があがる。三蔵の唇が首筋に触れてきた。

「や、それ、反則」

花火、見たいって言ってるのに。
首筋を辿る唇の感触に、もう花火どころじゃなくなる。
くるりと体の向きを変えられた。途端に目に飛び込んでくる綺麗な顔。

あぁ。花火より綺麗だ。

花火を見るのを邪魔されてムッとしてもいいはずなのに、その綺麗な顔を見ていたらなんだか嬉しくなって、思わず笑顔が浮かんだ。首に手を回して、目を閉じた。
柔らかく触れてくるキスを受けながら、まぶたの裏に綺麗な光の華が咲くのを感じた。