Little Ordinaries (3)


「算数でもしているのか?」

リビングで指を折り曲げつつ宿題をしていたら、入ってきた三蔵にそう声をかけられた。

「手を貸そうか」

ゴロンと直接床に寝転がって、頭を俺の膝に預け、手を上に差し出してきた。

「三蔵」

そんなコトされると落ち着いて宿題できないんだけど。
ちょっと困ったような視線を下に向ける。

「別に何もしねぇよ」

微かに笑いを含んだ声がする。

「お仕事、終わったの?」

月に一度、三蔵は『仕事』とか『義務』とか言って、二、三日書斎に篭ることがある。

「一応、な」

そして、それが終わるとこんな風に甘えたがりになる。
何の仕事をしているのかは、言いたくないらしくて詳しくは教えてくれていない。でも、嫌なコトだっていうのは見ていればわかる。

「ご苦労さま」

だから、労わるかのように頭を撫でた。
こんなことしかできないから。

「何をしていたんだ?」

上がったままだった手の人差し指の背が、軽く唇をなぞっていく。それは先ほどの言葉とは裏腹な動き。

「宿題」

そっと捕まえるように唇で挟みこみ、それから答えた。

「何の?」

だが、指は唇を逃れて頬へと滑っていく。やがて、四本の指で頬を撫でられ、それから耳の方にと手が動く。

「やっ……」

するりと軽く耳の後ろを一本の指で撫でられて、思わず身を竦める。

「何の宿題だ?」

三蔵の顔に意地の悪い笑みが浮かぶ。

「俳句」

が、その答えにちょっと驚いたように目を見開いた。
クスリと笑って身を屈め、不意をつくようにキスをした。

「ね、三蔵。ベランダって夏の季語だって知ってた?」

唇を離して問いかける。

「初めて聞いた」

起き上がった三蔵に支えられて、押し倒される。

「で、どんな句を作ったんだ?」

「教えない」

手を上げて三蔵の首に巻きつけ、笑って答えた。
大好きな三蔵の綺麗な顔が近づいてきた。

――ベランダに たたずむ君と 光る華


(memo)
WebClapのひとつとして公開していたお話です。