Little Ordinaries (51)


ナタクと李厘に手を振って、校門に向かった。

「八戒」

門のところには八戒。それから――。

「あれ? 悟浄は?」
「あぁいうのを、水を得た魚のようと言うんですかね」

そう言う八戒の視線を辿っていくと女の子の集団のなかに、頭ひとつ以上飛び出た影。
……うーん。あんなに幸せそうな顔をしてる悟浄は見たことがないかも。

「それより、良かったのですか? お友達は?」
「あぁ、へーき。今生の別れってわけじゃないし。春休み中に会う予定もあるし」
「そうですか。にしても、見事、ですね」

八戒が俺の姿をしげしげと見て言う。
一瞬、なんだろ? って思うが視線の先を見て、どういうことかわかる。

「別にもう着ることもないから。欲しいって言うならいいかな、って。袖口のトコのもあげてきた」

制服のボタン。欲しいと言われてあげていったら1コもなくなってしまった。

今日は卒業式。
保護者しか入れないはずなのに、なぜか会場に八戒と悟浄の姿があった。びっくりしたけど、なんか嬉しいな、と思った。

「迎えの車が来てますから、悟空は先にお店に行っててくれます? 僕は被害が出ないうちに、アレを回収してから行きますから」
「迎え?」

もともと今日は帰りに八戒のお店に寄ることになっていた。卒業祝いをしようということで。だけど迎えというのは。

「あそこです。じゃ、あとで」

八戒がお店の鍵を渡してくれながら、少し離れた路地を指さした。
そこに止まっている車は。
走り寄って窓を叩いた。助手席のドアが開く。

「三蔵、来てくれたの?」
「迎えにな」
「式から来れば良かったのに」
「別に見たところで面白いものでもねぇだろ」
「それはそうだけど」
「……出席してほしかったか? 保護者として」

その言葉に『そっか』と思い、クスリと笑った。

「三蔵。これ、あげる」
「何だ?」
「第二ボタン。感謝してよね。死守するの、たいへんだったんだから」

卒業して、春から新しい生活が始まる。
だけど、こんな風にずっとこの人が隣にいるといい。

保護者としてでなく。

黙ってボタンを受け取ってくれた三蔵に、そんなことを思った。