Little Ordinaries (50)


不覚……。
熱出して寝込むなんて、どのくらいぶりだろう。
しかも、こんなだるくて動けないっていうのは――。

「お前、何、してる?」

じたばたと起き上がろうとしていたら、突然、三蔵の声がした。

「おとなしく寝てろ」

声とともに、ベッドに戻される。額に濡れタオルが乗せられた。冷たくて気持ちいい。

「……さんぞ」

布団を掛け直してくれている三蔵を見上げる。
凄い綺麗だな、と思う。

「眠れ。そうすれば少し楽になるから」

じっと目で三蔵を追っていたところ、ふっと目に手を置かれた。

やだ。
三蔵が見れなくなるのも。

――眠るのも。

眠ればきっと嫌な夢を見る。
こんな風に苦しいのは、あの時と一緒で、あの時に引き戻されるようで。だから、眠るのはいやだ。

「どうした?」

体が強張ったのがわかったのか、三蔵が目から手を離してくれた。
再び、三蔵の顔が目に入ってほっとする。

「大丈夫だ、ここにいるから」

そう言ってくれるが、目を閉じることはできない。
嫌だ、と思う。


――怖い。

と、三蔵が顔を近づけてきた。

「――風邪……うつる……」
「かもな」

そう言いつつ、三蔵は再びキスをしかけてくる。

「大丈夫だから、眠れ」

それから、あやすようにゆっくりと頭を撫でてくれる。
優しい手に、徐々に体から力が抜けていく。
温かなものが流れ込んでくるようで、なんだか凄く安心する。

「三蔵……」
「なんだ?」
ゆっくりと撫でてくれている手を止めずに、三蔵はベッドの縁に腰かけてこちらを見下ろす。
改めて、本当に大好きだと思う。

「みんなが、大好きな人と一緒で……幸せだといいね」

祈るようにそう思い。
そっとまぶたを閉じた。