3. 寄り添いながらの口付け
「俺、冬って嫌いだったんだけど」
横を歩く悟空が唐突に言い出す。
「寒いから。夏の方が絶対いい」
「いきなり何だ?」
「いや、でも何か冬もいっかなって思って。だってこんな風に手を繋いでくれるし。手、繋ぐとあったかいし」
へへへ、と笑いながら悟空が繋いだ手を持ち上げる。
「それはお前がもたもたしてたからだろう」
だが、そう言ってやると、途端にふくれ面になった。
「なんでそういうこと言うかなぁ」
むっとした顔で唇を突き出すようにして言う。
そういう表情をすると――。
掠め取るように柔らかい唇に触れた。
「……っ?!」
悟空は足を止めた。
びっくりしすぎて、声も出ないようだ。
耳まで真っ赤になっている悟空を構わず引っ張って再度歩かせた。
「……いきなり何するんだよ。ここ、往来の真ん中だぞ」
少し顔を伏せて、俯き加減で悟空が言う。
「誰も見ちゃいねぇよ」
「そんなことないって。三蔵、自分がどれだけ目立つがわかってないの? すれ違う人が皆、振り返って見てくんだよ」
「そういうお前こそ、待ち合わせしている間に何人に声をかけられた?」
今日は悟空が出かけるというので、外で待ち合わせをしてメシを食うことにした。
考えてもみれば、こうして外で待ち合わせるのは初めてのことだ。出かけるときは家を出るときから一緒だ。一緒に暮らしているのだから当たり前のことだが。
なんとなく新鮮だと思いつつ、待ち合わせの場所に向かっていたら、遠くからでも目立つこいつに声をかけている輩がいるのが目に入った。
「へ? 声? んなのいないよ?」
それなのに。
目をぱちくりさせて心底不思議そうな表情を浮かべて、悟空は答える。
「嘘つけ。俺が行く直前に声をかけられてたろ?」
「あぁ。あれ。あれは、何かの勧誘。『どこかで詳しくお話をしませんか?』って」
……それはナンパだろ、どう考えても。
「そんなにモテないよ、俺」
こいつには自覚ってものがないのだろうか。
笑みを浮かべ、こちらを見上げる綺麗な金色の目。少し小首をかしげるようにしているのが可愛らしさに拍車をかけている。
ため息をついて、もう一度唇を掠め取った。
「三蔵」
悟空はまた耳まで赤くなり、眉を寄せて少し拗ねたような表情を見せた。
こんな表情まで可愛らしいというのは、ちょっと反則ではないかと思う。
やがて、ほっと悟空が息を吐き出した。
それから、腕に擦り寄ってくる。
「やっぱ、冬っていいかも」
そう言ってこちらを見上げる。
「三蔵がキスしてくれるし」
笑みを浮かべ誘うようなの唇に、もう一度顔を近づけた。