4. 一緒にコーヒーを飲もう


朝。
まだ寝ている悟空を残して、ベッドから降りようとしたところ、いきなり腕を掴まれた。

「どうした? まだ寝ててもいいぞ」

今日は休日。
特にどこかに出かける予定もないはずだ。

「……コーヒー」

寝ぼけ眼をこすりながら、悟空が言う。

「コーヒー、淹れてきて」
「は?」
「コーヒーが飲みたい。淹れてきて」

言われたことはわかるが、脈絡もないことに少し面食らう。

「お前、コーヒー、あんまり好きじゃないだろう?」
「うん。でも飲みたい。砂糖とミルク多めにしてね」

しばし沈黙する。
そんなにコーヒーが飲みたいのであれば、いつもならこんな風に人に頼まず自分で淹れるはずだ。
ついでに俺も飲むか聞いて。
何か理由が、しかもたぶんくだらない理由があるのだろうと思う。

「……少し待ってろ」

だが、昨日多少無理させたこともあるので、ここは望み通りにしてやろうと思った。
キッチンでコーヒーを淹れて寝室に戻る。
俺の分も入れて、二人分。

「ほら」

リクエスト通り、砂糖とミルク多めのコーヒーを手渡してやる。

「ありがと」

満面に笑みを浮かべて悟空が受け取る。

「おいしー」

一口飲んでまた笑みを浮かべる。

「で、これは何のつもりだ?」

ベッドの縁に腰かけて、問いかける。

「ん、と。この間、ナタクん家で映画を見てね」
「お前、勉強しに行ったんじゃなかったのか?」

友達の家に勉強しに行くと言って出て行ったはずだが。

「ちゃんとしてたよ。ちょっと息抜きでテレビをつけたら映画をやってたの。で、こうやって朝、ベッドにいる女の人にコーヒーを渡すシーンがあって、あ、いいなって思った」
「コーヒーを渡すのが?」
「だって、女の人が、じゃなくて男の人がコーヒーを淹れてあげるのって、凄くトクベツな感じがする。そういう感じ、味わってみたいなって思った」

こちらを見上げるのは、極上の笑顔。

「つきあってくれてありがと。三蔵、してくれないかと思ってたから、気まぐれでも凄く嬉しい」

トクベツ、か。
手を伸ばして、頤に指をかけ、軽くキスをした。
柔らかく二、三度啄ばむようにして唇を離すと、悟空の頬が鮮やかに染まっていくのが見えた。
これくらいのキスは何度も交わしているのにいつまで経っても初々しい反応を返す。

「さんぞ、今の……」
「おはようのキスだ。トクベツがいいんだろ? 言っておくが、気まぐれでこんなことはしないぞ」

みるみるうちに笑みが浮かぶ。

「三蔵、大好き」

悟空が抱きついてくる。

「おい、コーヒーが零れるぞ」
「大丈夫」

コツンと肩に頭を乗ってくる。
並んで飲むモーニングコーヒー。

こういうのも悪くないと思った。