4. 内緒話しの後のキス


「さんぞ……」

組み敷いた体の下で、苦しげに悟空が訴えかけてくる。
金色の目に浮かぶ涙が、零れ落ちた。
唇を寄せて涙の筋を辿る。
目尻から耳へと。
耳に触れると、悟空がピクンと震えたのが密着させた体を通して直に伝わってきた。
耳は、悟空の弱いところのひとつで、息を吹きかけるだけでも熱が灯る。

「言わなければ、ずっとこのままだ」

耳元で囁くように言う。
言葉を紡ぎだす度に唇が微かに触れるのにさえ反応して、悟空は身を竦める。

「やぁ……さんぞ……」

苦しげに掠れる、だが、どこか甘さを含んだ声。

「何を話してた?」
「言えな……だって、約束……」

ふるふると悟空は首を横に振る。
先ほどから繰り返し行っている問答。

今日、どうしてもバイトの都合がつかないと頼まれて、悟空が八戒の店を手伝いに行った。
終わる頃、ちょうど八戒に返すものもあったので店に寄ると、客のいない店内で悟空と八戒が話をしていた。

まるで内緒話のように。顔を近づけて。

実を言うと、ムッとしたのはその近さであって、話の内容ではなかった。
どうせくだらないことを話していたのだろうと思った。
だがここまで言わないとなると、そちらの方も気になる。

「そうか。じゃあ……」

手を放し、身を引こうとする。

「あっ! やっ! さんぞっ!!」

悟空が手を伸ばしてしがみついてきた。
予想通りの反応。
そうやって縋りついてきたところに、もう一度問いかけるつもりだった。

「ばっ!」

だが、悟空はほとんど体ごとぶつかるようにして身を投げ出してきたので、勢いで体勢が崩れる。
慌てて悟空と自分の体を支えた。
と、ベッドに座り込み、その上に悟空が乗り上げる形になった。途端に、悟空の口から甘い声があがった。

「あっ、ん……」

そして震えながら肩に顔を擦りつけ、耐えられないとでもいうように肩口に噛みついてきた。背中に回った手に力が入る。
そっと顔をあげさせると、涙に濡れた金色の目が熱く溶けていた。

「さんぞ……」

散々焦らしていたからだろうか。悟空が自分から唇を重ねてきた。

「ね……がい……、さんぞ……」

珍しく積極的な悟空からの働きかけに、話の内容を聞くことは頭から消え去った。



悟空がくったりと頭を胸にもたれかからせていた。

「あのね、三蔵……。八戒との話ね……」
「どうせくだらんことだろう。いいぞ、別に」

悟空の髪を弄ぶように梳きながら言う。

「でも、十二時過ぎたから……」
「なんだ、それは」
「えっとね。八戒が今日の十二時をすぎたら言っていいって。それまでは内緒にしててくださいねって。悟浄が、また振られたんだって。でも……」

悟空が顔をあげた。

「そんなの内緒話にならないじゃん。だっていつものことだし。そう言ったら、それでも三蔵に内緒にしておけば、楽しいプレイになりますよって」

悟空が小首をかしげる。

「ね、三蔵。プレイって何? 『プレイボール』のプレイ? 八戒に訊いても教えてくれなかった」

……あの野郎。

「教えてやるよ」

腕を掴んで引き寄せた。