Addiction(2)


日曜の礼拝が終わった頃、教会に八戒を訪ねた。

「これ、ありがと」

神父の正装をした八戒に、空のタッパが入った袋を手渡す。

「それから、ごめん。三蔵が迷惑かけてない? 俺なら大丈夫だから、たかるようなマネをしたらすっぱりきっぱり断ってくれていいから」

ほうれん草づくしから始まって、七草がゆの日から毎日のように三蔵が八戒から差し入れを持ち帰っていた。

「迷惑だなんてとんでもない。それより、あの方が心配してましたよ。ロクなものを食べてないって」
「そんなことないよ」
「そうですか? 話を聞く限りそうでもないみたいですけど」
「それはたまたま忙しかったりして、作るのが面倒だったから。いつもはそうじゃないんだよ、本当に」
「そういう時くらい頼ってくれてもいいのに。ここは家みたいなものでしょう? あなたにとっても、僕にとっても」
「……そうだね」

ふっと肩の力を抜く。そういってもらってちょっと気が楽になる。迷惑をかけても大丈夫といってもらえたような気がして。そういうところがあるのは、ほっとする。

「それに、あれは正当な報酬ですし」
「三蔵もそういってた。それって……」
「終わったぞ」

それってどういう意味。そう聞こうとしたところ、三蔵の声がしてびっくりする。

「なにしてるの、三蔵、こんなところで」
「寄付集めだ」

お札とか小銭とかが入った籠が目の前に差し出される。

「ありがとうございます。報酬はいつものとおり冷蔵庫に入っていますから。今日はテーブルの上のクッキーも一緒にどうぞ。あ、ついでにこれを持っていってもらえます?」

八戒は籠を受け取り、代わりに俺の持ってきた袋を三蔵に渡した。

「あの方が寄付を集めると、普段の倍以上の金額が集まるんですよ。教会に来てくれる人も増えましたしね。実際のところ、お惣菜だけじゃ申し訳ないくらいなんですよ」

奥へと入っていく三蔵をにこにこと見送りながら八戒がいう。
……それで正当な報酬、か。

「ところで、七草がゆをあの方と一緒に食べたんですってね」

笑みをくずさずに八戒がいう。

「疲れた胃に優しいっていうのも本当ですけど、その年の無病息災を祈って、家族で食べるっていうのも教えてあげればよかったのに」

家族で、を強調して八戒がいう。

「……八戒、そのこと、三蔵に」
「いってませんけどね」

八戒はなにかいいたそうな表情を浮かべるが、そこに三蔵が戻ってきた。

「帰るぞ」

そして、当然のごとく腕をとられる。
その手の強さになんとなく顔が緩む。「またね」と八戒に手を振って教会をあとにした。