Addiction(6)


え? と思ったときには、もう抱きあげられていた。

「三蔵?!」

問答無用で、いきなりその場から連れ出される。

「待てってっ、ちょ……っ、うわぁ!」

あげた叫び声は虚しくあたりに響きわたった。







「……ったく」

隣の建物――教会の中でようやく降ろしてもらえた。
だけど、ぎゅっと抱きしめられたまま。まるでなにかから護るかのように。
はぁぁっとため息をつく。

「いじめられてる、とか思ったわけ?」

答えはない。が、たぶんそれで正解だろう。
ま、知らなきゃ無理もないかもしれないけれど。でも。
もう一回ため息をつく。

「あれはね、豆まきっていって節分にする行事なの。豆をぶつけられていたのは、いじめられてたわけじゃなくて、俺が鬼の役だったから。鬼に豆をぶつけて追い払うことで、邪気を払うっていう意味があるの」

ほら、っていって被っていた鬼のお面を見せる。

今日は節分。

教会の付属の幼稚園で、豆まきの行事があった。
教会の幼稚園って言っても、別に普通の幼稚園とあまり変わらなくて、こういうキリスト教とは関係ない行事もやる。
で、ここ数年は俺が鬼の役を引き受けていた。……んだけど。

「あぁ、良かった。ここにいたんですね」
「八戒」

にこにこといつもの笑みをうかべながら、八戒が近づいてきた。

「ごめん。豆まきの行事、だいなしにしちゃったね」
「いえいえ。なんか大盛況でしたよ。金髪の天使さまが鬼を追い払ってくれたって」
「天使……」

三蔵の方を向く。
たしかに、この容姿はそう言われるのに似つかわしいけれど。

「鬼っていったら、三蔵の方がそうなのに」

吸血『鬼』なんだから。

「まぁまぁ。これ。あとで二人で食べてくださいね。じゃ、僕は行きますから」

包んだ豆を手渡してくれると、八戒はまた幼稚園の方に引き返していく。
と、三蔵が少し不思議そうな顔をして、包みを見ているのに気がついた。

「自分の年の数だけ食べると、その年、病気にならないって言われてるんだ。でも……三蔵は大変そうだね」

その言葉に三蔵がなんだか嫌そうな顔をした。

「ま、適当でいいんじゃない?」

クスクスと笑いながら歩き出す。

「来年は邪魔しないでね。っていうか、来年は二人で鬼をやる?」
「そのお面はごめんだな」

言葉とは裏腹に、三蔵の顔には微かに笑みが浮かんでいた。