Addiction(11)
「三蔵……?」
風呂から出ると、三蔵が待ち構えていた。
「なに? なんか忘れ物?」
パジャマを着て、濡れた髪をガシガシ拭きながら、そう聞く。
三蔵はもう先に入ったんだから、また入り直すんでもない限りここで待ってる理由がわかんない。
と、いきなり手首を掴まれて引っ張られた。部屋の隅っこに連れて行かれる。
「ちょ……っ」
一体なんなんだ。
と思っていたら座らされた。背後で三蔵も座る気配がする。
「なに……?」
なにがしたいんだろう。
そう思って振り返ると、そこにはドライヤーを手にした三蔵。
カチッとスイッチを入れるが、なにも起こらない。
「えぇっと……、髪、乾かしてくれるつもり?」
とりあえず四つん這いになって、コードを手繰り寄せて、コンセントに差し込む。
途端に三蔵が手にしたドライヤーから音を立てて温風が吹き出した。
三蔵は感心したようにドライヤーとコンセントを見ていたが、改めて俺を座らせると、おもむろに頭にドライヤーを当ててきた。
「ちょっ、熱いって。そんなに近づけんなって。ってか、ぐしゃぐしゃかき回すなよ」
なんだか手つきがすごく怪しい。
ぎゃーぎゃー騒ぎながら、遠ざかろうとするが。
「煩い。おとなしくしてろ」
とか言って、放してくんない。
「もう。いっつもしてあげてんじゃん。それ、覚えてないわけ? その通りすればいいだけだろ」
「だから、煩い」
そんな言い合いをしつつも、乾かすために髪を梳いてもらうのはなんか気持ちいい。
撫でられてるみたい。
「よし」
やがて三蔵の声とともにドライヤーの音がやんだ。
「終わり?」
髪に触ってみる。
なんかいつもよりぐちゃぐちゃな気はするけど、乾いてはいるからいいか。
そう思って後ろを見ると、なんだか満足そうな顔。
思わずクスリと笑ってしまう。
「ま、いっか」
そして呟く。
「なにが?」
「なんでもない。それにしても70点ってとこかな。次からはもうちょっとうまくやってね」
鏡を見てチェックし、クスクス笑いながら、押入れに向かう。
むぅっと、ちょっと不本意そうな三蔵の顔が目に入ってさらに笑う。
そして、心のなかで再び呟く。
まぁ、いいか、と。
バレンタインからこっち、ちょっとぐるぐる考えていた。
俺と三蔵の関係について。
それはどういったら良いかわからないものでも。
たぶん、三蔵が手を差し伸べてくるのは――それが、どんな意味でもこんな風に手を差し伸べてくるのは、俺だけだろう。
だから、いい。
たとえ不安定なものであっても。
そう、思った。