Addiction(13)


「あれ、三蔵?」

司祭館を覗いたら、三蔵がいた。
八戒からバイト先に電話がかかってきて、出かける用事ができたのでバイトの帰りに寄ってしばらく留守番をしてください、と頼まれたんだけど。
三蔵がいるなら、別に必要なかったじゃん。
と思って、でも考える。

「だけど、役に立たないかも」
「なんの話だ」

思わず呟いた言葉に、三蔵が反応する。
主語はなかったけど、自分のことを言われたってわかったのかな。
なんだかおかしくなる。

「なんでもない。……って、なに?」

笑っていたら、三蔵が椅子をひいてくれた。
座れ、ってこと?
とりあえず椅子に座ってみる。
と、三蔵がコンロに向かったのがわかった。やかんに水を入れて。

「お茶? やるよ」
「いいから座ってろ」

でも、と立ち上がりかけるが、軽く睨まれて座りなおす。
ってか、手つきが怪しいから見てるほうが怖いんだけど。
火傷とかしないかな、とハラハラしながら、なんだか気分は初めてのおつかいを見守る親の気持ちで見ていたところ、どうにかこうにか三蔵はお茶を淹れて、目の前に出してくれた。

「いただきます」

なんとなく神妙にそういって、手を伸ばそうとしたが。

「待て」

と制止される。
なに? と思うが、三蔵が戸棚から綺麗な細工がしてある小瓶を取り出してきて、その中身を二、三滴、お茶に落とした。
途端に広がる良い香。

「これって」

三蔵がよくここで飲んでるお茶だ。薔薇の香のするお茶。

「お前が興味を持っている、と聞いたからな」

そう言いつつ、三蔵が別の小さな陶器の入れ物を出してくる。蓋をとると。

「わ、きれー」

小さな、紫色の花。砂糖がまぶしてある。

「三蔵の瞳と同じだね」

見比べるように、小さな花を摘みあげる。

「薔薇の礼だ」

言われた言葉にしばし動きが止まる。
そうか。
今日は3月14日。
すっかりそんなこと、忘れていた。
あのときのことを考えると、まだ胸は痛むけど、でも。

「ありがとう」

素直に嬉しさがこみあげてきて、三蔵に笑みを向けた。