Addiction(15)


教会に入ろうとしたら扉のところにすごく目立つ男が立っていた。
鮮やかな赤い髪。均整のとれた、どちらかといえば細身の長身。格好自体はそれほど派手ではないのだけど、なんか雰囲気が派手だ。
あんまり教会には似つかわしくない。
似つかわしくない、といえば。

「教会の敷地内では禁煙ですよ」

口にくわえた煙草に、やんわりと注意をする。

「あ、わりぃ」

見かけほど悪い人ではないらしい。
男は素直にそう言うと、煙草を足許に落とし踏みつけた。
それを見届けて、扉の中に入ろうとすると。

「ちょっと、待った。お前がもしかして、悟空、か?」

いきなり腕を掴まれた。

「は?」

なんだ?
というか、初対面なのに馴れ馴れしくないか?
さっきの印象は取り消し。

「へぇぇ。あいつのお気に入りの割には、ほとんどあいつの匂いがしないのな」

どこか楽しそうに男が言う。

「ところで、お前の味ってそんなにいいのか? ちょっと味見させてくんねぇ?」

気がつくと、至近距離に男の顔があった。

「やめ……っ」

慌てて押しのけるよりも前に。
バサバサという羽音がした。

「てめぇっ」

凄い勢いで体が後ろに引かれ、男から引き剥がされる。

「……三蔵」

背中の羽が溶けるようになくなり、鳥に姿を変えて飛び去っていくのが見えた。

「ハメやがったな。なにがもう長くない、だ」

ギッと三蔵が睨みつける先は、赤い髪の男。
どうやら知り合いらしい。

「だって、今日はエイプリル・フールだから」

涼しい顔で男が受け流す。

「どういうことだ?」
「今日は、嘘をついてもいい日なの。ここいらの風習では、ね。郷に入れば郷に従えって言うでしょ」
「……てめぇらは揃いも揃って似たようなことを」

静かだけど、怒りのこもった声で三蔵が言う。

「あらら。怒らすと怖いんで、とりあえず退散しますか」

台詞の割にはのんびりと、男が歩き出す。

「またな、悟空」
「二度と来るなっ」

ひらひらと手を振ってかけられた言葉は、三蔵の怒号にかき消された。