Addiction(16)
バイトが終わって教会に寄ると、なんだか三蔵が拗ねていた。
早いシフトのときはこうして迎えに来てやっているというのに、なにが不満なんだろ。
ちらりと八戒の方を窺うと、なんだかあいまいな笑みを浮かべ、ちょっと、とかなんか言ってどこかに行ってしまった。
「……で、どうしたの?」
仕方ないんで、三蔵に直接聞く。
が、予想通り、三蔵はなにもいわない。
はぁ、とため息をつく。
「よくわかんないけど、俺、疲れてるから先帰るからね」
そう言って出て行こうとすると。
「5日……」
三蔵が呟いた。
「この間の5日、お前の誕生日だったんだってな。神父はともかく河童まで知ってるのになんで俺にだけ教えとかないんだ」
「河童?」
「悟浄だ。赤い髪の」
「あぁ、あの人。でも、なんで河童?」
「そんなのはどうでもいいだろっ」
……ありゃ。
これは本格的に拗ねてるかも。
「別に隠していたとかそういうんじゃないよ。悟浄が知ってたのはたまたま八戒が誕生祝いをくれたときにその場にいたからで。なんか、あの人もよくココにいるんだよね」
よくよくこの教会は人外のものにとって居心地の良い場所らしい。
聞くと悟浄も吸血鬼らしいので。
といっても、本当の吸血鬼ではないみたいなんだけど。その辺、よくはわからないけど。
「で、誕生日だけど、それって別に意味があるわけじゃないから」
ちょいちょいと手招きして、三蔵を教会の外に連れ出す。
通りとは逆の、教会の庭に。
1本だけある桜の木の下に。
「ここに、ね、捨てられてたの、俺。生後間もない赤ちゃんのときに。だから、誕生日っていってもホントにその日に生まれたわけじゃないから、意味のあるもんじゃないんだよ」
「それでも誕生日だろ? 親しい人間と祝うもんなんだろ?」
その言葉に、ふっと柔らかな笑みを浮かべる姿を思い出した。
そう。毎年、祝っていた。拾ってくれた人と。4月5日を誕生日、と決めてくれた人と。
でもその人はもういないから、誕生日もあまり意味がない……はずだったけど。
「神父も河童も祝いをやっているのに……」
こんな拗ねたような表情で、こんなことを言うなんて。
俺はこの人にとってはただの食事の対象でしかないはずなのに。
なんだか拾ってくれた人と毎年誕生祝いをしていたときの気持ちがよみがえってきた。
「今ので充分だよ」
ちょっと遅れた誕生祝いをもらったような気になる。
「でも気になるなら、来年からは皆で誕生パーティでもしようか」
それも楽しいかもしれない。
自然に浮かんだ笑みを三蔵に向けた。