Addiction(17)


「適当に花束を作ってほしいんだけど」

かけられた言葉にふと顔をあげると、見知った顔があった。

「悟浄」

スーツにタイと割ときっちりとした格好をしているが、後ろでひとつにくくっている派手な赤い髪のせいか、堅気には見えない。
が、モデル並みの容姿なので、道行く人の視線が集まっているのがわかる。

ここは繁華街の一角。
店先のちょっとした空きスペースを借りた小さな露天の花屋。俺のバイト先のひとつ。

といっても、露天でやってるのが本業というわけではなく、ちゃんと店もあるのだが、都内にこうした小さな露天の花屋もちょこちょこと出していて、たまにそこで働く仕事もまわってくる。
値段を低くおさえているせいか、人が多いせいか。これが意外と売れて、割と大忙しだったりする。

「これからデートなんだ。趣味の良いのをひとつ、よろしく」
「んな、あいまいなコトを言われてもな」
「こらこら、客に向かってそういう態度はないでしょ、小猿ちゃん」
「猿じゃねぇっ!」

怒りながらもとりあえず客だし、希望を聞いてみることにする。

「どんな感じがいいわけ? 華やかなの? 可愛いの?」
「そりゃもちろん華やかな感じで」

じゃあ、と赤いバラに手をのばそうとしたところ。

「あっ、と。そいつは避けて。俺サマに似合いだろうけど」

言われて思い出す。目の前にいるのが『吸血鬼』だってことに。

「……これってもしかして血を吸う人にあげるの?」
「生きていくために食べなきゃならないのはお前も一緒だろ?」

わかってる。
それはわかってるけど……。

「というお前は、ちゃんと三蔵に食わせてやってる?」
「な……っ!」

我ながら手際よく花をまとめ、茎を揃えて切ろうとしたところでそんなことを言われ、あやうく手を切りそうになる。

「その様子だとやっぱりお預け食らわせてるな」

ふぅ、と悟浄がため息をつく。

「お前にとっちゃあ不本意かもしれないけど、もうちょっと頻繁に血をやってくんないかな。触れてるだけじゃ、たいして足しにもならないし。あいつはゆるやかに自殺しようとでも思ってるのかもしんねぇけど」
「自殺?!」
「人間だってそうだろ? 食わなきゃ死ぬだろうが」

なんで――。
目の前が暗くなるような気がした。

「悟浄、これ」

手に持っていた花を押しつける。

「おぉ、サンキュ。って、リボンくらいかけろよ。全然花束になってねぇじゃん」
「あと、お願いね」

エプロンも外して、花鋏と一緒に悟浄に押しつける。
なにごとか喚く悟浄の声を背に、雑踏をぬって駆けだした。