Addiction(20)


「三蔵、いい加減、離して。バイトに遅れる」

なんだか懐くように、後ろから抱きかかえられている腕から逃れようと身をよじる。

「バイト? 休みじゃねぇのか? ゴールデンウィークだろ?」
「……」

思いもかけない言葉を聞いて、ちょっと固まる。
ゴールデンウィークなんて、どこで聞いてきたんだろ。
だけど新聞か教会でのおしゃべりかテレビか、そんなもので知ったのかな、とすぐに見当をつけた。

「人が休んでるときに働く仕事もあるの」

そういって離れようとするけれど抱きこまれた腕は外せない。

「もう。血は足りてるでしょ」

こうやって触れ合うことでも、食事の代わりになるとは聞いた。でも、ちゃんとした食事なら昨日したばかりだから、足りないということはないと思う。前に比べたら血を吸う頻度は増えてるんだし。

「ほら、離してって」

このままだと真面目に遅刻する、とちょっと強めに言うと。

「……別に食事じゃねぇ」

ほとんど聞き逃してしまいそうな小さな声が返ってきた。

「三蔵?」

無理やり体を反転させて、向かい合う。
目の前には、儚げな感じの紫暗の瞳。
ときどき浮かべる、このまま消えてしまうんじゃないかというような表情。

――ゆるやかに自殺をしようとしている。

前に悟浄に言われた言葉を思い出す。
手を伸ばして、軽く頭を撫でた。

「今日はそんなに遅くならないうちに帰ってこれるから。それに、ゴールデンウィークほどじゃないけど、そのうち、四、五日続けてお休みをとるから」

いい聞かせるようにいうと、もう一度、ふわりと抱きしめられた。