Addiction(21)


なんだか昨日も今日もすごく忙しかったな、と思いつつ家路をたどっていた。
と、もうかなり遅いので人通りもない暗い道に人影が見えた。

三蔵。

薄暗い闇の中にいるはずなのに。
なぜだろう。
その姿は、冴え際立って見えるような気がした。

白い肌と金色の髪が。
昼間見るときよりもなおいっそう綺麗に見えるような気がする。

こういうときに、この人はやっぱり違うのだ、と思う。
普通の人間ではないのだ、と。

なんとなく声をかけそこねて、ぼーっと見ていたところ、近寄ってきた三蔵にふわりと抱きしめられた。

「……どうしたの?」
「知るか」
「は?」
「お前が呼んだんだろ」
「へ?」

呼ぶ? なにそれ。

「寂しい、とずっといってたろ」
「えぇ? そんなこと、いってな……」

いってない。

そう答えようとして、でも思い当たることがあって言葉が途切れる。

いってはいない。
でも、思ってはいた。

今日は母の日だった。

バイトで、ずっと赤いカーネションを売っていた。
それを渡す相手もいない――いないどころか、わからないのは寂しい、と思っていた。

「三蔵。三蔵って、人の心が読めるの?」
「読めねぇよ。読めたら、もっと気のきいたことをしてる。言葉にもならない感情みたいなものが、お前から流れてくるんだよ」

抱きしめられている腕の力が強くなる。

その力強さに。
どこからともなくあたたかなものが心に押し寄せてきた。

この人は『人間』ではないけれど。
でも、そばにいてくれる人がいるのだということが。
そして、それをわざわざ教えにきてくれることが。
どういうわけか、とても嬉しかった。

「……ごめん、もう大丈夫」

三蔵の背中に腕をまわして、その胸に顔を埋める。
答えのように、三蔵がぎゅっと抱きしめてくれた。