Addiction(25)


降り出した雨のなか、急ぎ足で家に向かっていた。

なんだか最近、忙しい。
バイトの系列店に、小売じゃなくて花のディスプレイを専門に扱う店があって、そこの手伝いをしてるせいだ。

春の気候の良いときには結婚式が増える。そこは式場の飾りつけもしてるからかなり忙しくて、応援に行っているのだ。
そこといまのバイト先はもとは同じ店だったんだけど、式場とかお店のディスプレイが評判で、それで独立させたらしい。
ま、入る前の話だから実は詳しくは知らないんだけど。

とにかく、そういった花も勉強したいし、お呼びがかかったら積極的に行くようにしてたら、なんかいつの間にか手伝いの量が増えて気がつくと遅く帰る日が多くなっていた。
これから6月だし、6月といえば『ジューンブライド』だし、まだまだ遅くなるなーと思っているうちに家に辿りつく。

鍵を出して開けて。
と。
部屋のなかが暗かった。

あれ? と思う。

もうこの時間だからとっくに家に帰ってるだろうと思って、教会には寄らずに帰ってきたんだけど。
どこか行ってるのかな。
靴を脱いであがって電気をつけようとして。

「三蔵」

ちょっとびっくりする。
部屋の隅の方に、三蔵がいた。

「どうしたんだよ。なんで電気……」

なんで電気をつけないの?
そう聞こうとして、言葉が途切れる。
真っ暗ななか、それでも三蔵がどこを見るでもなくぼんやりとただ座っているだけ、というのが見てとれたから。

「三蔵、大丈夫?」

どこか具合でも悪いんだろうか。
そばに寄って行って話しかける。

と、ようやく三蔵の目の焦点が合って、俺を見る。
が。

「三蔵?」

三蔵は無言で立ち上がると、玄関の方にと向かう。

「三蔵」

外に行こうとしている。
それがわかって、その背中に声をかける。

「……ちょっと出てくる」

こちらを見ずにそういうと、三蔵は扉の向こうにと消えて行った。
パタン、と扉が閉まる。

なんだか三蔵がとても遠い気がして。
追いかけることもできずに、ただ扉を見つめていた。