Addiction(27)


「ね、八戒、あの薔薇の香料って高いの?」

バイトの帰りがけに教会に花を届けに寄ったところ、いつものようにお茶に誘われた。
目の前にお茶が置かれたとき、ふと薔薇の香りのするお茶のことを思い出した。

「高いというか……。入手がとても難しいといった方が良いのですが。あれは彼らのものですから」
「あぁ」

――彼ら。
人とは違う種族。

「……そっか」
「なにかありました?」
「ん、と……」

ためらいつつも話そうとしたところ、急にバタンという音がして扉が開いた。

「ひゃー、降ってきた」

という声とともに入ってきたのは赤い髪の持ち主。
燃え上がるような、見事な赤い髪の先から滴が落ちていた。
八戒が立ち上がり、ため息をつきそうな顔で、でも、それでもタオルを渡す。

「サンキュ。お、小猿ちゃん、来てたの?」
「猿じゃねーっ!」

むっとして言い返そうとして、思い出す。
そういえば、この人も、人とは違う種族なのだということを。

「な、悟浄。悟浄なら、薔薇の香料って手に入る?」
「薔薇の香料?」
「うん。最近、三蔵、元気ないから」

お茶に入れる薔薇の香料は、この人たちにとっては食事の代わりになると聞いた。

なんだか最近、三蔵がすごく儚げにで。
そのまま消えちゃうんじゃないか、って思えるくらいだ。

なにをするでもなく、ぼんやりと外を見てるだけだし。
もともと家にいても新聞読んでるか、テレビを見てるかだけで、なにもしてはいないんだけど、でも普段はあんな目はしていない。

暗く、虚ろな瞳。

「うーん。あれは割と特殊なものだからな……」
「……そっか」
「でもコトと次第によっちゃあ、骨を折ってやらないでもないが」
「なに?」
「味見をさせて……うおっ!」

最後まで言い切らないうちに、悟浄の体が後ろに引かれる。

「タオル、使い終わったなら、返していただきますね」

いつの間に背後に回ったのか。
八戒がいつもの――怖い方の笑みを浮かべていう。

「ちょ……っ! 髪っ! 髪も一緒に掴んでるからっ! おいっ! さっきのは冗談だって! 八戒さんっ」

悲鳴じみた声に、ようやく八戒の手が離れていく。

「ったく……」

頭をさすりながら、改めて悟浄がこちらを向く。

「にしても、そんなに心配か? 三蔵の食欲がなくて寂しい?」
「な……っ!」

食欲イコール、で思わず頬が赤くなる。
噛みつくように否定しようとしたら、ぽんぽんと軽く頭をたたかれた。
穏やかな声が降ってくる。

「あいつ、湿気に弱いんだ。それにも関わらずここを離れようとしねぇから、いろいろと無理が出てるんだろ。ま、心配するほどのことにはならねぇと思うから、優しくしてやってくれ。それが一番のクスリだ」
「あ、うん……」

見上げた先にはいつものからかいの表情ではなく、なんだか嬉しそうな、優しげな顔。
ちょっと毒気を抜かれて、素直に頷いた。