Addiction(30)
教会に寄ったら、三蔵は珍しくも幼稚園の方だといわれた。
子供だろうが、大人だろうが関係なく無愛想なんだけど、あれで、三蔵、割と園児たちに人気があるのだ。
綺麗だからかもしれない。。
本人、無視しようとしているのだが、なにせ子供は遠慮がない。
そのうえ、当然と言えば当然なんだけど、子供の扱いがわからないらしく、いつも手こずっている。
だから、なるべく幼稚園には近寄らないようにしてるみたいなんだけど。
まぁでも、この時間ならもう園児もいなくなってて、急襲される心配はないから幼稚園の方にいても大丈夫なんだろうけど、でも、こっちにいる理由がないよな、と思いつつ行ってみて。
その理由がわかった。
笹の葉。
庭に大きな笹飾りがたてられていた。
風に吹かれると、色とりどりの短冊がさざ波のように揺らめいて綺麗だ。
三蔵はそのすぐ近くにいて、笹飾りを見上げていた。
「なんか願い事でもあるの?」
声をかけると、こちらを振り向いた。
「願い事?」
「そ。七夕の日には、短冊に願いを書いて笹につるすと叶うっていう言い伝えがあるんだ」
「そうか」
三蔵は短冊を一枚ひっくり返し、そこに文字が書かれているのを確認するが、あまり興味がなさそうにすぐに短冊を手放す。
「三蔵も何か書いて飾る?」
「別にいい」
「願い事、ないの?」
「ねぇよ」
「全然? なにかひとつくらいあるでしょ。願い事というか望みというか」
「そんなものはねぇよ」
言い捨てるように言う三蔵の正面にと回った。
なんだかとても暗い目をしているような気がした。
そっと頬に手を添える。
「なんの願いも望みもなく生きているのは辛いよ? なにかひとつくらい持たなくちゃ」
「……そういうお前は、どうなんだよ」
添えた手に手が重なる。
「願い事? もちろんあるよ。でも、内緒。教えない」
いたずらっぽく笑いかければ、むっとした表情が浮かんだ。
「それは自分で叶えなくちゃならない願いだから、他の人に話してもしょーがないんだ」
付け加えると、重ねた手を捕まえられて、乱暴に引き寄せられた。
「願い、できた」
ぎゅっと抱きしめられる。
「お前の願いを知ること」
「なに、それ」
耳元で聞こえた声に、子供みたいと可笑しくなって、くすくすと笑って答える。
と、ますますむっとした気配が伝わってきた。
「じゃ、叶ったら教えるよ」
笑いながら、三蔵を見上げた。
「そしたら、いっしょに願いが叶うね」
少しだけ、三蔵の目の色が柔らかくなったような気がした。