Addiction(31)
「寄るな」
空気を切り裂くような鋭く冷たい声が教会の中から聞こえてきた。
「三蔵?」
三蔵の声だった。
扉を開けると、三蔵と悟浄が対峙していた。
ピリピリと痛いくらいに空気が緊張している。
なにがあったんだろう。
そう思ったのは一瞬で。
すぐに三蔵の腕から流れる血に思考が奪われる。
「三蔵っ」
そばに走り寄ろうとして。
「近寄るなっ」
凍てつくような視線が投げかけられた。
驚いて足が止まる。
まるで他人を――いや、敵を見るような目。
こんな鋭い目は見たことがない。
「さ……んぞ……?」
声が震える。
いつも向けられる瞳はそこにはない。
鋭く、冷たい鎧をまとっているかのよう。
と、不意に三蔵が背を向けた。
別の出口から教会を出ていく。
追ってくるな、と。
無言の強い拒絶がその背中から感じられる。
「……ったく」
ふぅっと吐き出すように息をついて、悟浄が教会の椅子に倒れこんだ。
「気にすんなよ、悟空。三蔵サマ、ちょっとムシの居所が悪いだけだから。頭、冷やせば、すぐもとに……って、おいっ!」
悟浄の声は耳を素通りする。
三蔵のあとを追って走り出した。
胸が痛い。
すごく痛い。
だけど、これはさっきの三蔵の視線のせいじゃない。
これは。
これは、きっと――。
――三蔵の胸の痛みだ。
「三蔵っ!」
夜のなか、その闇と同化してしまいそうな三蔵に手を伸ばす。
「……離せ」
無理やり足を止めさせると、ひと言だけ冷たい言葉が降ってきた。
「離せっていってんだ。……うっとおしい」
それでも手を離さずにいたら、吐き捨てるように言われた。
「ごめん……、ごめんなさい」
言いつつ、背中に顔を埋める。
よくはわからないが、涙があふれてくる。
「ごめん……三蔵」
ぎゅっと抱きついたまま、ただ「ごめんなさい」と繰り返す。
ただそれだけを繰り返す。
と。
ふっ、と三蔵の体から力が抜けた。
「バカか、お前は……。なに、謝ってる」
こちらを向いて、くしゃりと髪をかきまわすその瞳は。
「うん。ごめん……」
いつもの色が浮かんでいて。
ほっとして、笑った。
「帰るぞ」
頭に置かれていた手にそのまま押されて歩きだす。
そっと三蔵に寄り添った。