Addiction(32)


「包帯」

家に帰ると、救急箱のおいてある押入れに向かおうとした。
が、腕をつかまれる。

「ダメだよ。手当しなきゃ」

引き寄せられるのに逆らうと、ますます強く引っ張られた。

「三蔵」

抗議の声はあっさりと無視され、腕のなかに抱きこまれる。
ちょうど、目の位置くらいに血を流す三蔵の腕が見えた。

「三蔵、手を離して。手当したいだけだから。どこにも行かないから」

言うと、今、気づいたかのように、三蔵が自分の腕を見た。

どうしてこの傷がついたのかは知らない。
教会に寄ったときはもうその状態だったし、三蔵はいつもと違い人を寄せつけない冷たい空気をまとっていたから。

ただすごく痛いのだということはわかった。
傷そのものではなく、胸が。

「……三蔵?」

そんなことを思い返しながらぼんやりと傷を見ていたら、驚くようなことが起こった。
ゆっくりと、ではあったが、傷が消えていく。
見上げると、じっと傷を見つめている三蔵の顔があった。まるで集中しているみたいに。
やがて、ふっと三蔵が肩の力を抜いた。

「傷、治せるの?」
「あれくらいならな」

なんでもないことのように三蔵が答える。
だけど。
知ってはいたけれど、やっぱりこの人は『人』ではないのだと思い知る。

「血。失った分、貰うぞ」

囁かれて、無意識のうちに少しだけ体をすくめてしまう。頬が熱くなるのを感じる。

「全然、慣れねぇのな」

微かに笑みを含んで三蔵が言う。

「ま、そこがいいんだか」

柔らかな感触が首筋にあたり。

「……んっ」

突きたてられる牙に、息を呑む。

痛くはない。
一瞬、ちくりとはするけれど、その感触には慣れた。

慣れないのは――。

直後に襲ってくるこの熱。

これは化学反応みたいなものだ。
そうとわかっているのに――。

「三蔵……」

手をのばして、キスをねだるかのように目を閉じた。