Addiction(34)
「うそだろ、おい」
向かいに座っていた悟浄が目を疑うような表情を浮かべて呟いた。飲もうとした薔薇の香のするお茶は忘れ去られたかのように空中で止まったまま。なんだか悟浄自体が固まってしまったかのようだ。
「……三蔵、重い」
悟浄の様子も気になったが、どちらというと今はこの状態の方だ。
いきなり膝の上に頭を乗せてきた三蔵に文句をいう。
「ダルい」
だけど、そう返ってきただけで、三蔵は動こうとはしない。
「って、三蔵はなにもしてないだろ。それに今日は雨でもない」
反論してみるが、効果なし。
ふぅ、とため息をついた。
今日は司祭館の模様替えを少しするというので手伝いに来ていた。といっても、手伝いは俺と悟浄だけ。三蔵はただわきで見てただけだった。
なのに「ダルい」とは、なんなんだろう、まったく。
「お前ら、普段そういうことしてるの?」
と、ようやく驚きから立ち直ったのか、悟浄がお茶を一口飲んで聞いてくる。
「へ?」
「膝枕」
「あー……」
言われて、やっぱこれって特殊なことだよな、と思う。けど。
「三蔵がひっついてるのは、よく見てるじゃん」
「まぁ、そうなんだが。触れることでも精気がとれるってのがあるからなぁ。だけど、膝枕はちょっと違うだろ」
う。
そうかな。そうなんだろうか。
「三蔵、ほら、やっぱりヘンだって、起きろよ」
で、言ってみるけど、三蔵は目を閉じて知らん振りのまま。
って、本当に寝てるのかな?
覗きこんでみる。
と、頬に影が落ちるくらいに長いまつげとかが目について。
目を閉じてると、なんか本当に綺麗なヒトなんだってことが改めてわかる。
強い光を宿す瞳が見えないからだろうか。
透けるように白い肌、通った鼻筋。繊細な造りがいつもよりも目立つ感じがする。
そして、なによりも綺麗なのはキラキラと光る金色の髪。
そっと手をのばして触れてみる。
と。
「ったく、やってらんねー」
向かいで声がした。
すっかりその存在を忘れていたので、驚いて手を引っ込める。
が。
「へーへー。お邪魔さんでした」
そういって悟浄がお茶を片手に立ち上がった。ふと下を見ると、三蔵が悟浄を睨みつけていた。
悟浄の姿が見えなくなると、また目を閉じる。
微かにその唇に笑みが刻まれているように見えるのは、気のせいだろうか。
なんだか意識しすぎて、固まったまま動けなくなってしまった。