Addiction(35)


目の前に大輪の光の華が咲いた。

「すっごい、きれー」

ビルのてっぺんで――空に一番近いところで花火を見る。

打ち上げられているところのすぐ近くってわけではないから、間近ってわけではないけれど、それでも地上で見るよりは大きく見えるんじゃないだろうか。

アパートでご飯を食べていたら、花火の音が聞こえてきた。
ウチからじゃ見えないんだよね、と言ったら、三蔵がここに連れてきてくれた。

鳥たちを呼び出して。
その鳥たちと融合して、天使のような姿になって。
空を飛んで、ビルの屋上まで連れてきてくれた。

本当は、眠っている鳥を呼び出して使役するのはたいへんなことだけど、特別だと言っていた。

そして今はその背に羽をまとったままの姿で、俺の後ろにいる。
……正確には、三蔵に後ろから抱きかかえられていた。

「さんぞ……暑いんだけど」
「しょーがねぇだろ。この姿を維持するのに、少しは協力しろ」

触れるだけでも少しは精気が取れるらしい。
全然、実感がないからよくわかんないんだけど。

「いっぺん鳥を帰したら?」
「呼び出す方がたいへんなんだ」

すりっと鼻先がうなじにこすりつけられて、思わす身をすくめる。
くすりと笑う声が聞こえてきた。

「――お前が血をくれるのなら、そうしても良いが」
「却下っ」

いくらビルの屋上で、まわりにはこのビルより高い建物はなくて、だれにも見られることはないといっても、それはできない。
絶対に嫌だ。

「じゃあ我慢しろ」

……なんだか楽しそうだ。

「わかった。じゃ、もう帰ろ」

ので、少し意地悪な気持ちになってそう言う。

「いいのか? 次、あがったぞ。――しだれ桜みたいだ」

言われて空を見た。
金色の光がキラキラと光り、流れるように、降り注ぐように、零れ落ちてくる。

「ふわぁ……」

思わず感嘆のため息をつく。
また含み笑いが聞こえてきて、反射的にむっとするけれど。
でも思えば、こうしてゆっくり花火をみることなんて、本当に久しぶりのことで――。

なんだかふわりと優しい懐かしい思いがこみあげてきて。
まぁ、いいかと、三蔵に寄りそった。