Addiction(37)
すぅ、っと。
家に入る前に大きく息を吸い込んだ。
うん。大丈夫。いつも通り。
というのも。
さきほど、三蔵の知り合い――といっていいのかよくわからないが、少なくても三蔵と同族の、綺麗な、西洋人形のような青年に会った。
ずっと一緒にいられるわけではない。それをよく考えろ、といわれた。所詮、糧なのだから、と。
でも。
でも、それは最初からわかっていること。
改めていわれたところで、動揺することでもない。
「ただいま」
ドアを開けながら、いつものような声がちゃんと出た。
部屋のなかには、当たり前のように三蔵がいる。
すでに日常と化してしまった風景は――本当は、日常ではないのだと、よくわかっている。
ちゃんとわかってる。
手を洗って、口をゆすいで、今日は夕飯は外ですましてきたからお風呂の用意、と思って振り返ったところ、三蔵が目の前にいた。
「三蔵?」
なんだか険しい表情をしている。
「あいつと会ったのか」
「あいつ?」
「ヘイゼル」
その言葉に、思わず目を見開く。
なんでわかるんだろ。
それは思っただけで口にはしなかったけど、三蔵が答えを返してくる。
「匂い。わざとだろうけどな、あいつ、匂いをつけていきやがった」
「匂い?」
「自分のモノにする予定だから手を出すなってやつ。胸クソ悪ぃ」
ぎゅっと抱きしめられる。
「血、よこせ」
そして、耳元で囁かれる。
「な……」
「いつまでもそんな匂いをつけておくな」
いわれるのと同時に、首筋にいつものちくりとした痛みが走った。
同時に胸にも痛みが走りぬける。
所詮、糧なのだから。
これは、珍しい食べ物を取り合うようなもの。
でも、それだってわかっていること――。
だから。
体の奥から湧きあがってくる熱情が、すべて覆い隠してくれるといいと思った。