Addiction(40)
夜の教会はしんと静まり返り、ところどころ明かりを消してあるせいで薄暗く、なんだか別世界にいるような感じを受ける。
この世ではないどこかにいるような――。
いつの間にか、八戒も悟浄も姿を消していた。
「三蔵……?」
そっと声をかける。
ずっと三蔵に抱きしめられたままだった。
いつもよりもその手は強く、といって抜け出そうとして抜け出せないこともないのだけど、でも振り払えないでいた。
なんだかすがりつかれているみたいで。
「大丈夫だよ。八戒は三蔵を傷つけることはしないよ」
消します、と。
八戒はいってたけど。
「そんなことはしない」
ふっと、三蔵の手がふっと緩んだ。
「別に消されねぇよ。あれは強いが、本気でやりあって勝てねぇ相手じゃない」
「三蔵っ」
ちょっとびっくりして、三蔵の腕を掴む。
「お前は……」
そっと包み込むように頬に手がそえられた。
顔を上げさせられる。
綺麗な、宝石のような紫の瞳。
だけど……なんだろう。
なんか、いつもとは違う。
「三蔵……?」
見つめる瞳の色がいつもよりもずっと深い。
無表情で、その顔からはなんの感情もくみとるはできないはずなのに、どうしてだか見ていると胸が痛い。
「あいつが……八戒が、そんなに大切か?」
と、囁くような声がした。
思ってもみなかった問いに、少しためらう。
「……大切、だよ。だって、家族……みたいなものだから」
答えると、三蔵の瞳の色がまた深くなった。
「もしも、俺か、あいつか――どちらかを選ばなくてはならなくなったとしたら――。お前はどうする?」
「な……」
驚いて、答えにつまる。
三蔵か、八戒か……?
「なんで? どうして、そんなこと、急に……」
ぎゅっと三蔵の腕を握る手に力をこめる。
なんだか体の芯がすぅっと冷たくなっていくのを感じる。
と。
「悪い。なんでもねぇよ。ただ聞いてみただけだ」
ふわりと抱きしめられた。
「三蔵……」
「忘れろ」
上から声が降ってくる。
返す言葉はなにも浮かばず、ただいい知れぬ不安が忍び寄ってくるのを見ないように目を閉じて、三蔵にぎゅっと抱きついた。