Addiction(42)


家に帰ってきたら、三蔵がいなかった。

途中、寄ってきた教会にもいなくて。
だから当然ここにいると思っていたのに、扉を開けた途端、真っ暗な室内が目に入って。
どこにも三蔵の姿はなくて。
なんだか途方に暮れたような、そんな感じがした。

どこに行ったんだろう。

そう考え、そういえば三蔵が『どこかに行く』なんて考えたことがなかったと気づいた。

知り合って強引にここに住みついてから、三蔵はこの家か教会か、そのどちらかにいて。
たまにどこかにふらりと出かける気配はあるけど、でも俺が帰る頃にはたいていそのどちらかにいたから――。

三蔵がどこかに行く、なんて考えたこともなかった。

どこかに……なんて。
そう考え、ゾクリと悪寒のようなものが走った。

前に一度だけ、三蔵がいなくなったことがある。

あのときは『ちょっと出てくる』って言って、そのままいなくなって。
ずっと帰ってこなくて、このままいなくなってしまったら――といてもたってもいられなくなって、それで外に飛び出した。

これは……。

この気持ちはあの時と同じ。
胸の奥が焼けつくような焦燥感。

あのときと同じように外に飛び出した。

もうすっかり暗く、所々に電灯はあるが、闇に沈んでいるような、そんななかを歩いて――いや、走り抜けていく。

どこにいるんだろう。
どこにも姿は見えない。

あのときはどうやって探しあてたんだろう。
よく覚えていない。

走っていたら――三蔵がいた。

今回もそんな風にならないかと思ったのだけど……。

どこにも三蔵はいない。

走り疲れて、足を止めて、肩で息をする。

どうしよう。
このまま三蔵がいなくなったら。

いなくなったら――?

大きく息を吐き出す。

そうなったら、元に戻るだけだ。
それだけだ。

なのに――。

ふと顔をあげると、いつの間にか家の前に戻ってきていることに気づいた。

どこをどんな風に走って来たんだろう。

ぼんやりと考えたところで、部屋に電気がついていることに気がついた。
階段を駆け上がり、部屋の扉を開ける。

そこに――。

三蔵がいた。

勢いよく扉を開けすぎたのか、少し驚いたような顔をしている。
その顔を見て、ほぉっと息を吐き出した。

なんで、あんなに怖かったのだろう。
ここにちゃんと三蔵はいるのに。

頭のうえに影がさし、見上げるとすぐ近くに三蔵がいた。

「また、そういう顔をしてる」

静かな声がした。

「顔?」
「泣きそうな顔」

言われて、頬に手をやる。
そんな表情をしているつもりはなかった。

もう一度、顔をあげると、部屋のなかに引き返す三蔵の後ろ姿が目に入った。

「さ……」

その後ろ姿が消え入りそうで。
呼びかけようとした声は、なぜか途中で止まってしまった。