Addiction(43)


「もう終いか?」

次第に夜が深くなっていく繁華街の一角で、露店の花屋を閉めるために片付けをしていたところ、声をかけられた。

「悟浄」

シックな感じのスーツに身を包んでいるのに、どことなく派手な印象を受けるのはその鮮やかな髪のせいだろうか。

いや。
道行く人のほとんどの視線を集めている理由は、たぶんこの容姿だけではない。

派手な印象を与えるくせに、それとは正反対のどことなく神秘的な雰囲気――普通の人とは違う感じが、周囲に漂っているからだと思う。

それは三蔵と同じ種類のもの。

そして。
ふたりは普通の『人』ではない。

というか本当に『人』ではない――。

「まだ大丈夫なら、花束を頼みたいんだが」
「しょうがないな。特別サービス。どんな感じの?」

吸血鬼である彼らには糧――人の血が必要で。
悟浄の場合は、十中十、女性だ。

一夜の恋。

そう呼んで、本当に恋人に送るように花束を持参する。
それを作らされたのは一度や二度でない。

意外と好みに幅があるのか、可愛らしい小さな花束から華やかな大きな花束までいろいろだ。
だからどういうのが良いのか聞いてみたのだが。

「お前の好きな花を好きなだけ使って好きな風に」
「は?」
「たまにはそういうのもいいだろ?」

そんな答えに意味がよくわからなくて聞き返したら、ウィンクが返ってきた。

なんだろ。

疑問が渦巻くが、とりあえず花を手に取る。

「はい」

しばらくして、出来上がったものを悟浄に渡す。

「紫に……黄色、ね」

くすりと悟浄が笑う。

「三蔵の色だな」
「な――っ」

いわれた言葉に絶句する。
いまさらながら、その事実に気づいて。

「いいんじゃねぇの? ほら」

くすくす笑いながら、悟浄が花束を返してくる。

「え?」
「今日のデートは中止になっちまってな。それはお前にやるわ」

思わず受け取って、その花束を見下ろした。

紫と黄色。

三蔵の色。

「……ね、悟浄」
「ん?」
「俺さ、なんかへんな顔してるかな?」
「……人によっちゃあ、愛嬌がある顔っていうんじゃねぇか」
「そういうイミじゃなくて」

ちょっとむくれる。

容姿のことなんて、自分が一番よく知っている。
そうではなく。

「俺、普段、なんか悲しそうな顔してる?」

そう問いかけると、一瞬、悟浄の顔に逡巡するような表情が浮かんだ。

「――お前は、悲しいと思っているのか?」

それから質問に質問が返ってくる。

「悲しい……のとは、ちょっと違うと思う」

考えて答える。

「なら、いいんじゃね?」
「へ?」
「お前が悲しくないんなら、別にいいんじゃねぇかってこと」
「……それってどういう――」

話の途中だというのに、微かに笑みを浮かべ、悟浄は歩み去っていき、すぐにその姿は人混みに紛れてしまった。

俺が悲しくないなら――?

手にした花束をじっと見つめた。